シカナルSS
[[one's beloved]]
ある日の夕方、愛しい人が待つアパートへと急ぐ。
大学から近い其処は二部屋のボロいアパート。
高校の頃から一緒に居る"奈良シカマル"が、オレの愛しい人。
『たーだーいーまー!』
常に鍵の掛かってない、ギィと鈍い音がするドアを開けて、中で寝て居るであろうシカマルへ声を張り上げた。
「うっせー」
気怠そうにソファから体を起こす。部屋の入り口に立つオレを、眉間に皺を寄せながら見据えた。
『しかー、ただいまっ』
ソファの足下に勉強道具やらガラクタが入った黒い肩掛け鞄を放り、胡座をかきどっかり座ってるシカマルへ、ダイブ。
「はいはい、お帰りナルト」
細く見える割に筋肉質な胸板に、ぎゅうっとしがみついてると。優しく、ぎゅっと抱きしめて、頭をなでなでしてくれる。
帰ってきた時、シカマルがやってくれるコレが大好きだ。
『シカマル、今日は何食べたい?』
「ナルトが作ったモンならなんでも」
シカマルは、頭がいい。世間一般で言う良さとは桁が違う。
シカマルは、何でも出来る。本当に何でも。
だけど。
料理だけは苦手、つーより壊滅的。理科の実験より難しいらしい。料理のセンスは皆無だと、悪気は無かったのに言ったらその夜は散々な目にあった…。まぢで。
『んー、じゃあ今日はビーフチューの気分!いい?』
オレは、頭が良い訳じゃないし。ドジとか天然とかダチは言うけど、料理の腕はピカイチと皆言ってくれる。
自分でも得意な方だと思う。作るのも楽しいし好きだ。
「あぁ。ハラ減った」
『オレも!作り始めるからシカは風呂でも入ってくれば?』
愛しい体温からは離れ難いが、少し体を離して上にあるシカマルの顔を見上げて首を傾げた。
「そーする」
怠そうにソファから立ち上がり風呂場へ向かうシカマルの背を見送りながら、キッチンに立つ。
お気に入りの圧力鍋に水を張り材料を突っ込んで火にかける。圧力鍋を作った人は天才だと思う。時間が掛かるものもコレがあれば、ビーフシチューでさえも小一時間程で出来てしまうのだから。
そろそろ出来るってタイミングでシカマルが風呂から出てくる。いつも風呂で寝てるんじゃないかと思うぐらい長い。
本人曰く、湯船に浸かりボーっとしてると勝手に時間が経ってるらしいけど。
『もう出来るよー』
「うまそーな匂い」
黒いスウェットの下だけ履いて、上は裸で肩からタオルを掛けている。
長い綺麗な黒髪からは水が滴り床に小さな水たまりを残していく。
『シカマルちゃんと拭かないと風邪ひくってばよー』
「あぁ」
気のない返事をしながら、冷蔵庫からビールを取り出す。
缶を開けながらソファに座り、冷たいビールを喉に流し込んだ。
キッチンに立つナルトを横目に見ながら、大して興味もないテレビをつける。
この時間からナルトの好きなバラエティ番組が始まるからだ。それを見ながら、がしがしと頭を拭き上を着る。
カチャカチャと食器の音がして、ソファの前に置いてあるガラステーブルに今日の夕食が並べられていく。
『できた!食べよー』
足下に敷かれたラグ座り、既にスプーンを持っているナルトの向かいに腰を下ろす。
「『いただきまーす』」
「うまっ。」
『うん!上出来』
今日あった事を話すナルトに相槌をうちながら夕飯を食べる。
テレビを見ながら、オレに話をしながら飯を食う。器用なもんだと思いつつ、愛しいひとが作った夕飯を胃に収めた。
食べ終わりナルトが風呂に入ると、再びソファでゴロ寝。
流しっぱなしのテレビ画面にはニュースを読むアナウンサー。
腹も膨れウトウト微睡み始める意識。
『シカ、そこで寝たら風邪ひくだろー。ベッド行くってば!』
沈みかけた意識を浮上させて、ナルトと寝室に向かう。
狭い部屋に大きなソファ。狭い寝室に大きな、ベッド。
風呂上がりの少し赤い愛しいひと。
「ナル」
『ん?…ぅ、ふぁ』
無防備なナルトの腕を掴み、体を抱き寄せてキスをする。呼吸困難に陥りそうなぐらい深いキスを。
愛しいひとが、俺のこと以外考えられないように。
「……ナルト」
『はぁ、はぁ……』
生理的に零れる涙。綺麗な、あおいあおい瞳。更に赤く染まる、頬。
「俺のコト以外考えんてんじゃねェよ」
『シカマルのコトしか好きじゃねーよ。』
「だったら今すぐカラダで証明しろよ。オマエが」
『……ッ変態、ドS。寂しがり屋。大好きシカマル、オレの最愛のっ―――』
続きはキスに飲み込まれて。
深まる夜に、ふたりのカラダと一緒に溶けていった。
END