シカナルSS
[[cool beauty]]
秋風が通り抜け、見上げた空は青かった。
校舎裏にあるゴミ捨て場へと足を運び、もう着れなくなってしまった体操着を放り捨てた。
何着新調すればいいのか。
哀しむ気にも、怒る気にもなれない。
呆れて溜息がでるばかりだ。
来年には高校生だと言うのに、こんなクダラナイ中途半端ないじめをして、気を紛らわそうとしている。
勉強のストレス発散に一々体操着を切り刻まれて、挙げ句の果てにはいつ泣くの?と聞かれたって、オレはこんな事で泣くほど繊細には出来ていない。
溜息を吐き出し、校舎裏を出て裏門へ行くと、不良チックな同級生をみかける。
特に何かする奴等ではないから、目の前を通り過ぎて裏門から学校を出た。
10分ほど歩いて駅にでる。ブレザーを脱いで煙草に火を点けた。
「お、優等生が学校サボって煙草吸ってる」
奈良シカマル。同じクラスのサボり魔優等生。
授業は殆ど出ないくせに、毎回テストの点は良い。
学年トップ3から、オレとコイツの名前が抜けることはまずない。
「人の事いえねーじゃん」
銜え煙草でゆびをさされても、焦りも出来ない。
「確かになぁ。優等生が煙草吸うとは知らなかったわ」
「生憎、自分では優等生でいる気はないんでね」
「なーんか、お前案外クールビューティーだね?」
「あんたは案外バカっぽいね」
「失礼しちゃう。ほらっ」
投げられた缶は、ひんやり冷たく"りんご紅茶"と書かれている。
「……………?」
「やる。お友達になろうか」
「…………は?」
「クールビューティーが気に入った。俺、綺麗なモノが好きなんだよね。」
「オレには全く関係なくねぇ?」
「無いケド?俺がお友達じゃ不満?」
「さぁ?もう好きにしなよ」
「ありがとさん」
奈良シカマルは、得体の知れない奴だ。
ほぼ初めてぐらいの勢いで言葉を交わした、中学三年の秋。
あれから、ウザいくらい絡まれ、卒業する頃にはオレの隣には常にシカマルがいた。
「義務教育とも今日でさらばー」
「今度からは出席足りなきゃ即退学だねぇ」
「心配無用。何のために今までサボったと思ってんだ!毎日学校通うためのサボり溜めだ」
「やっぱシカマルって、バカだね?」
「ナルトは常にクールビューティだね、俺はそこに惚れたよ」
「あ、そう」
証書も受け取り、校長の長い演説を流し聞き。
がらんとした教室で、窓から下を覗き込んだ。
「ナルトは結局体操着、何着買ったの?」
「何で知ってんの?」
「いつも見てたんだよねぇ。ゴミ捨て場の上の階段から。
こいつ何時泣くんだろうってみてんのに、溜息ばっかで呆れた顔してんのが気に入ったんだよね。」
「シカマルって、良く解らない奴だね。オレ何であの時好きにしろとか言ったんだろ?
全力で拒否ればよかったな……」
「まぁまぁ、高校も三年間宜しく頼むよっ」
「………受験校なんか教えなきゃよかった」
「ハイレベルを選ぶとはねぇ、まぁ予測してたから確認だよね。
同じ所ならきっと楽しい」
「やっぱり。シカマルは、バカだよね?」
「俺、ナルトにバカって何回言われたか、もう解らないよ」
騒がしい校門付近を通り過ぎ、駅へ歩く。
「だって、なぁ?バカみたいな事ばっか言うから」
「今で言うツンデレ?ん?ナルトにはデレがないな。
やっぱ、クールビューティー」
「ずっと言ってるけど、オレ別にビューティーじゃないけど?」
電車に乗り込み空きの多い場所に座った。
「俺から見れば、ナルトは十分ビューティーさんだね。心底惚れてる」
「あ、そう」
「ほら、そんな感じがクール。んで見た目がビューティー。文句なし!」
「はぁ。………ハラ減った」
「何食う?」
「もんじゃ焼き」
「はい決定ー」
「シカマル、」
「んー?」
「ごちそうさま」
「お、任せろ」
「やった。さんきゅ」
卒業式には、二人でいつもの店でもんじゃ焼きを食べて帰った。
春休み中には何だかんだで遊んで。
高校の入学式にはふたりで行って、またいつもの店でもんじゃ焼きを食べて帰った。
教室の片隅。
「ナルト、授業はサボるためにあるんだぜー」
「バカじゃないの」
高校に入って、シカマルとの初めての春だった。
END