ときめきバグりある!番外編
※ 本編22・痒みは痛みで吹き飛ばせ の 瑛視点です
久しぶりの休み。めいっぱい波乗りに時間を費やし、それでも少し後ろ髪をひかれる思いで海を後にした。
まだやり足りないって言うのが正直なとこだけど、家でメシ作って待ってるヤツをほっといて遊び呆けるのは気が引けるもんな。
だったら一緒に来ればいいのに、って心の中で愚痴ってみる。……いや、別に愚痴ってほどじゃないけどさ。
せっかくボディボード教えてやるって誘ってやったのに、断られたからって別に根にもってなんかないし。
そりゃ、たまの休みだから一人で思う存分楽しんでおいでって気遣いは、願ったりだったけど。楽しめたし。
けどさ。本当にたまの休みなんだ。俺だけじゃなくて、おまえにとっても楽しい一日であって欲しいんだ。
いや、別に俺と一緒に過ごすのが、絶対楽しいって保障はないけどさ。
……でも、楽しいだろ?だっておまえ、俺のこと
closeの札がかかった珊瑚礁のドアが近づいて、ガラスになんだか難しい顔した俺が映る。
無理やり思考を中断させて、気を取り直すために軽く頭を振った。濡れた毛先から雫が飛んだ。
「なあ、メシできた?」
わざとドアベルの音が大きくなるようにドアを開けて。ほんの少し子供じみた仕草を装って、カウンターの向こうに声をかけた。
「おかえりダーリン!」
そしたらおまえはいつもどおり、能天気な顔して、ぼんやりと感じていた不安をかきけすように、嬉しそうに笑う。
「そういうのいいから、メシは?」
なんか、幸せだなって思ってしまったのが悔しくて、なんでもないフリでそっけなく答える。
そうやって俺の反応みて楽しそうにするのはいつものことで、すっごく癪に障るのに。
なんか、今日は本当に
「……亭主関白ですかコノヤロウ」
「だれが亭主だよ!」
本当に、大事なひとのとこに帰って来たみたいな気がするって思ってしまったから。
念押しするみたいに重ねられた言葉は、うっかりスルーしそこねた。
いつも、俺ばかりが振り回されてる。
年齢とか、社会的な立場とか。そりゃ俺よりおまえのがスキルが上なわけだから、別に俺が負けてるってわけじゃない。
だって、おまえの方がずっと俺のこと好きなわけだから。
俺を見るおまえの目とか、簡単に赤く染まる頬とか、オレに向ける笑顔とか。
おまえのくれる好意はわかりやすくて、器用な駆け引きなんて知らない俺ですら、簡単に誘い込める。
怒って俺の頭をつかむ小さな手のひらのぬくもりが心地よくて、文句を言わずにいたら、ひっこみのつかなくなったのか、困ったように眉が下がる。
いつもと違ういろに染まりだす空気を感じて、勝手に慌てるおまえに、なんかすごく安心する。
「早くシャワー浴びておいでよ」
少し冷えた指先が頬におりて、ぎこちなく滑る。
「わかってるよ」
されるがままに目を細めて、ふわりと灯る熱に胸がざわつくままに、他愛もない嘘を重ねる。
「いいよ。無理すんな」
「……わかった。無理しない」
委ねるふりで誘いかけると、簡単に罠に落ちた。
たまには、俺の手のひらで転がされてしまえばいいんだ。
余裕ぶって呟いたそんな捨て台詞は、なんの衝撃もなく重なる唇に、あっという間に吹き飛ばされた。
策士、策に溺れる
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