SS

□GS2
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「志波くん。今度の日曜日なんだけど……」


 学校の廊下で小波に呼び止められて、切り出されたのは次のデートの約束。
 デート……で、いいんだよな?
 別にアイツとは付き合ってるってわけじゃないが、オレは小波のことが好きで、多分アイツもそれに近い感情を持ってくれている……と思う。
 これだけ頻繁に二人でデートを重ねる仲なら、普通ならもっと確信を持って言い切るべきなのかもしれないが
 相手はなにもここまでニブくなくていいだろう、と一日に何度思わせられてるかわからない小波だ。
 さすがにそんな自意識過剰にはなれない。








「こんな場所、よく知ってたな。」
「うん、結構調べるの手間取っちゃった。ごめんね?こんな遠くまで。」
がそう言ったのは、ここが片道二時間強のはばたき市外のスポットだからだ。

「いや……むしろ美味しい」
「え?」
「気にするな。来たかったんだろ?」

 遠出先でなにかラッキーなハプニングでも、なんて少し期待(ほぼ妄想)していたため、洩らしてしまった失言をごまかすと

「うんっ!どうしても、志波君と来たかったんだよ!」
「……っ」

 思わず抱きしめたくなるような、笑顔と言葉が返ってきた。

 しかし、次の瞬間には
「あ、ここってマイカーでも回れるんだって!
 真咲先輩に車出してもらえばよかったかなぁ?」

 ……オレと来たかったんじゃないのか?
 思わず肩を落とした。
 いや、二人きりで、とは言わなかったな。
 まったく、コイツは……。
 サファリパークのマイクロバスに乗り込みながら、オレは思わずため息をついた。




 一度、思い知らせておいたほうがいいのかもしれない。
 おまえの何気ない一言、意味のない視線ひとつに、オレがどれだけ容易く振り回されるのか。
 小波に悪気や作為なんて、これっぽっちもないってことはわかってる。
 でも、だからこそ、それが無性に腹立たしくなるときがある。
 胸の奥で何かがくすぶるような、もどかしくて切ない気持ちを、全ておまえにぶつけてしまいそうになる。
 おまえがオレだけ見ててくれたら、こんな弱いオレなんて知らずにすむのに。




 おまえは優しくて
 誰にでも優しくて
 オレに特別だという証をくれないから




「……でしょ?」


 小波の声に我に返る。
 知らず知らずのうちに、硬く握り締めていた拳に気づいて、自嘲めいた笑みを浮かべた。

「悪い、ぼーっとしてた。なんだ?」

 いつの間にかエンジンのかかったバスの中で、無意識に窓の外に視線を向けていたため、小波はオレの様子に気づかなかったらしい。
 今だけはコイツのニブさに感謝したい気分だ。


「うん、あのね?こないだ動物園に行ったとき……」
「ああ。先月だったか?」
「うん!そのとき、志波くんが言ったこと、覚えてる?」
「……ちょっと待て。」

 小波から目を離し、記憶の棚を探ってみる。
 しかし覚えているのは小波の言葉や表情や仕草ばかりで、自分が何を言ったのかまでは記憶の容量が足りなかったらしい。


「いや……悪い。覚えてない。」
「もう、しょうがないなあ。」

 少し顔を赤くして、唇を尖らせる小波。
 この表情もしっかり記憶に焼きついてしまったので、今夜はきっとヤバイ。
 そんなことを思ってるうちに、バスが動き出した。

「わ!出発だぁ!」

 子供のように歓声を上げる小波に、バスの中の親子連れがくすくすと笑っていた。







 バスは草食動物のエリアをゆっくりと走る。

「思ったより来ないね?」
「ああ……距離があるからな。」
「あ、でもやっぱり志波君の方見てる!」

 嬉しそうに小波が指差す方を見れば、確かにシマウマとインパラの群れが一斉にこっちをじっと見つめていた。
 ……ちょっと異様な光景だが、小波が楽しそうだからまあいいか。


「でね?さっきの話。」

 バスが肉食動物のエリアに入ったとき、 海野 が再び口を開いた。

「ああ、途中だったな。で?」
「志波くんがね、言ったの。
 どんな猛獣が襲ってきても、生きてる限りは守ってくれる、って。」
「ああ……」

 確かにそんなことを言ったような気がする。

「でも忘れてたってことは、本気じゃなかったのかな?」

 茶化すようにそう言った小波の表情が、少し寂しそうだと思ったのは、オレの勘違いか?

「そんなわけないだろう。」

 否定の言葉は、小波に向けてのもの。



 守ってやる。
 オレの目の前で、おまえが傷つくなんて耐えられない。
 お前を失ったら、オレに何が残る?
 今オレが持ってる全てのものは、おまえに貰ったものだから。




 おまえが オレの 全てだ。




「だからね、ここに来たくなったの。」

 少し冷えた手で、側にあった小波の鼻をつまむ。


「……本当に猛獣と戦えなんて言わないよな?」
「ふふ、言わないよー。」

 少し鼻にかかった声。
 くすくす、と零す笑い声。小波がオレを見る。
 いとも簡単に、オレを惑わせるその瞳で。

「でも、志波くんがバスの外に出たらどうなるか、ちょっと興味あるかな。」
「…………。」



 今、コイツが命じたなら


 オレは


 ためらわず外に飛び出してゆくかもしれない。







 WORNING!
好奇心は猫をも殺す。




 
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