Trust Me?

□番外編
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<Trust Me?>1−4・番外編 ※ドリーム非対応

・クラブ対抗リレーのお話です。


そして誰もいなくなった  <主人公視点>



「で、なんでバトンが白衣なんですか?」

「そりゃ、ハンデだよ。」

 若ちゃんの、いつ洗ったか定かでない白衣を見ながらブツブツ言ってると、男子部部長はさらりと一言で返してくる。

 ハンデって、陸上部は男女混合なんだから、男ばっかのクラブに塩送ることないじゃないですか。




 体育祭前半の目玉である、クラブ対抗リレーは、なんのこっちゃない、真剣勝負とは程遠いお祭り企画。

 運動部でも文化部でも参加表明すれば出られるため、こと細かくハンデが設定されている。

 たとえば単純に走る距離だったり、ユニフォームだったり、バトンだったり。



 男子・女子両方ある部は男女混合で出るのが通例らしく、野球部とかラクロスとか、男子部・女子部の片方しかない部からは

「おまえら男女仲良く盛り上がりやがって、羨ましいぞコラ」

 みたいなオーラが立ち上っていて、ある意味壮観だ。



 各部色とりどりのユニフォームで臨んでる中、なぜか男子制服の上に白衣、というスタイル(第二走者からは男子制服姿)の我が陸上部。

 風をはらんで膨らむから、走りにくそうだなぁ・・・。



 レースは一周200メートルのトラックで行われる。

 各部参加人数は四人から十人まで。

 運動部男子は一人200メートル

 運動部女子は一人100(200でも可)

 文化部はもうなんでも自由に

 計800メートル走ればオッケー。

 ただこれだけじゃ、バトンパスにかかる時間や、意外に体育会系文化部な吹奏楽部の存在で、いささか不公平な感が否めない。

 そしてそのために編み出されたのが


「『お邪魔しまシステム?』」

「そう。あそこにカードが並べてあるだろう?

 走者がポイントに差し掛かったとき、あのカードを各部部長が引いて、そこに書かれたことを実行するんだ。

 基本的には100、500、700メートルを過ぎた時点がそのポイントになってる。」


 部長の指差す先では、マイクを持った実況担当の生徒が、並んだ長机の上に、丁寧にカードを並べている。

 ああ、だから部長はエントリーしてないのか。

 うちのメンバーは短距離専攻の男子二人と女子三人。

 そしてなぜか、ジャンプ競技で専攻を決めかねてるあたしがアンカー。まあタイムでは引けをとらないつもりだけど。

 アンカーのあたしが走るときに、その指令ってやつをやらなきゃいけないってことになる。


「たとえば何が書いてあるんですか?」


 直前になっての説明に、あたしは要領の悪さを不満に思いつつ、尋ねる。

「たとえば10秒動けないとか、コーナーのショートカットOKとか。

 あと、クラブによって、ドリブルしながら走るとか。

 あと、妨害は認められてるよ。顔面と急所以外なら、攻撃も可能だから。」


 急に物騒な話になった。 


 ・・・まあ、しょうがない。なるようになれだ。

 ・・・志波が部活所属してなくて良かった。

 さすがにあいつには勝てる気がしないからなぁ。






「位置について、よーい」


 パン、と乾いた音で一斉に第一走者が飛び出していく。


 まずは並んで先頭になった、なにかと張り合ってるイメージのある野球部とサッカー部が、地力で勝る(はずの)我が陸上部の進路を妨害するように爆走していく。

 パタパタと風を受けてはらむ白衣に苦戦しながら、外を突いてあがろうとするウチの第一走者(以下・陸@)の背中に、テニス部の打ったゴムボールが直撃した。

 応援席がわっと盛り上がる。


「毎年陸上部はこぞって的にされるんだよね・・・。ほとんど男子がだけど。」

 第二走者の女子の先輩が、ため息をつきながら教えてくれた。

 ああ、だから男子二人にしたのか。

 チーム編成に納得してうなづきながら、あたしはレースに目を戻した。


 すでに縦長の状態で(妨害の巻き添えを恐れてっていうのもあるだろう)、先頭はトラック半分の100を通過。



『さてここで恒例の、お邪魔しまシステム発動ーぉぉっ!』

 実況が声を張り上げ、順位順に並んだ部長がカードを引いた。

『まずは、野球部!おっとイキナリの10秒行動停止!これは辛い!』

 キキッと音がしそうな勢いで急停止した野球部員が恨めしそうに部長を見やり、応援席からもブーイングが起きる。


『続いてサッカー部!こーれーはーラッキィ!

 次の走者が動かずにパスを受ければ、バトンパスと認めるッ!』

 今度は応援席から拍手と歓声。

 サッカー@からAまでは100メートルないから、これは余裕だ。

 ちなみに、サッカー部のバトンはもちろんサッカーボール。


 んん・・・。

 妨害はオッケーだったよな?


 サッカー@が勢いよく蹴ったボールは、正確にAの元へ。


「よいせ」


 そしてAの前に立ちふさがったあたしは、それを明後日の方向に蹴り飛ばす。


「ああーーーっ!何しやがんだてめぇ!」


 どよめきの中、@の絶叫が響く。


『おおっと、コレは陸上部のナイスクリア!』

「パスコースが分かっているなら、この程度のこと、容易い・・・」

 別の放送部員にマイクを向けられ、あたしは無駄にかっこつけてフッと笑って見せる。

 応援席から歓声と黄色い悲鳴。

 よし。バッチリ好印象!



『サッカー部、残念ながらチャンスを活かすことは出来ませんでした!』

「覚えてろよ、陸上部!」

 あわててボールを拾いに走るサッカー部を尻目に、次々にカードが引かれていく。

「天堂さん・・・」

「あ、来ますよ?」

 恨めしそうな陸Aの声は、聞かなかったことにして、あたしは指令どおりの欽ちゃん走りで近づいてくる陸@を指差して、にっこり笑った。





 二回目のお邪魔しまシステムでは


 野球部「大リーグ養成ギブス」

『おおっ!野球部監督がおふざけで作った、伝説のアイテムの登場だぁっ!

 ああ、野球部、スプリングの隙間に肉が挟まる恐怖で動けなくなってしまった!』

「くっ・・・アレを与えられたのがオレなら・・・!」



 サッカー部「ボールは友達」

『ああっ!友達が星になったぁ!』

「てめぇ、マジコロス!」

「ドリブルコースが分かっているならこの程度のこと」



 バスケ部「左手は添えるだけ」

『コレは女子には地味に辛い!バトンのボールを持つ手が震えています!スピードアップは断念か!?』



 陸上部「10秒行動停止」

『ああっ!なんとこの流れで、ごく普通の指令のカードを引いてしまった!

 なんとなく、場がしらけてます!どうしますか?陸上部部長。』

「いや、これは俺のせいじゃなくて、陸上マンガが少ないせいだ。」

『おっしゃるとおり!オススメ陸上マンガがあれば、ぜひご一報を!』



 まあなんだかんだしてるうちに、アンカーのあたしの出番が来た。

 二回目のお邪魔しまシステムのせいで、順位はもう実力そっちのけで一位生徒会執行部。二位が卓球部。そして三位に陸上部。

 まあ生徒会は抜けるだろうけど、卓球部は男子だし、ビミョウかもなぁ・・・。悔しいけどさ。


「あなた今、生徒会は余裕で抜けるとか思いませんでしたか。」

 一緒に走者を待っていた生徒会アンカーの女子に、急に声をかけられた。

 あたしをキッとにらんだメガネのチビッコ。・・・カワイイな。

「言っときますけど、私、走るのは得意です。生徒会だからって運動で見くびられるのは心外です!」

「ああ・・・ゴメンね?」

 ムキになるその子が可愛くて、微笑みかけたら余計に怒った顔になった。

 なんだか、一生懸命な子だな。

 こういうところ、あかりに似てるかも・・・。


 そんなことを思ってニヤニヤしている間に、走者が近づいてきた。




『さて、波乱万丈のお邪魔しまシステムもこれがラスト!レースも残すは100メートルのみ!

 さて、どんな番狂わせが待っているのか!?逃げきれるか、生徒会!』

「逃げ切ります!」

『生徒会のカードは・・・
ものまね!ものまねです!』

「ものまね!?」

 隣で気合をみなぎらせるチビッコが、指令を聞いてメガネの奥で目を丸くした。

 ・・・ん?

 ものまね?

 突如、趣向の変わった内容に思わず眉をひそめる。


「え、ええと・・・じゃあ、エリマキトカゲの真似で走ります!」

 一瞬唖然としていたチビッコが、我に返って走り出した。

 コミカルな動きに笑いが起きる。

 ・・・カワイイじゃないか。

 この状況でこのチョイスは謎だけど、相当早いぞエリマキトカゲ。

 とにかくさっさとゴールを目指そうっていう機転なのだろう。さすが生徒会。


『続く卓球部は・・・女装コスプレ!
そこの箱の中からひとつ選んで、着替えてください。

 早く着替えられるのはやっぱりレースクイーンか、キャンギャルか!?』

 いや見たくねぇ。

 だけど応援席は生暖かく、「レースクイーン」コール。

 なんかラストの指令だけ、ビミョウなお笑い系が続いてるんですが。

 ・・・やな予感するかもー。


『陸上部は・・・一発ギャグ!

 おお!陸上部のアンカーはプリンス天堂!さあどんな一発ギャグが飛び出すのか!?』

 おお!?と、場がどよめく。

 なんだろう・・・この期待されてないのに、妙に期待されてる感じ・・・。

 思わずこめかみを押さえ、前の走者からバトン代わりの白衣を受け取る。


「天堂ー!」

 とりあえず白衣を着ながら、聞こえた部長の声に振り向くと、部長は満面の笑みで白衣を指差す。

「こんなこともあろうかと、お助けアイテムを忍ばせてある!
 白衣の胸ポケットを見ろ!」

 見ると、そこにはメガネが刺さってる。

「ソレ使ってケ○ト・デリカットでも、メガネメガネでも、存分にやるがい・・・ガッ!」

「昭和か!!」

 メガネを部長に思い切り投げつけてから、少し考える。

 ・・・うん、もうここでやらないのは女が廃る!

 あたしはピチピチのワンピースをかぶってもがいてる卓球部に駆け寄って、バトン代わりの卓球ラケットを奪い取り、すう、と息を吸い込んだ。

 胸の前で両手を組み、あの人のような穏やかで優しい微笑を浮かべて

 一言。





「ピンポンです。」







 無駄に溜めた一瞬の後


『おおおーっ!ここでまさかの若王子スマイル!コレは見事、陸上部の意地を見せ付けたぁ!

 プリンスの勇姿に、女子生徒から黄色い悲鳴が起きている!』


 感嘆と賞賛のどよめきの中、あたしはもういいだろうと、走り出す。

 どこからともなく

「それはギャグじゃありません・・・」

 なんていう悲しげな呟きが聞こえたけど、無視。

 数歩でトップスピードに乗り、いまだ律儀にエリマキトカゲ走りなチビッコを、ゴール手前で追い抜いた。

 驚いて見開かれた真ん丸い瞳に、もう一度優しい微笑を映して。



 ゴールテ−プをきる。




『おおお!!今年のクラブ対抗リレーの勝者は陸上部ぅぅぅぅぅ!!』

 実況に沸きあがる歓声とプリンスコール。

 あたしはにっこり笑ってそれに大きく手を振って・・・ 


 そして


 ダッシュでグラウンドから逃げ出した。

 あたしの後ろからは、顔を真っ赤にした生徒会のチビッコが付いてくる。

 その後も、続々とアンカー軍団が逃げてきてるのが見えた。

 あたしは思いっきり毒づく。




「このアホ祭り企画ーーーーーーーーー!!」







         


  
          ・・・私がアホです。08/8/1
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