ときめきバグりある!1st trip

□6・結局最後は心の目!
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 夜の街を遊くんの先導で走る。
 夜だからと言うだけじゃない、不自然なまでの静けさ。
 まるで音のない世界。
 全力疾走してるというのに、冷たい汗が背中を流れた。


「ここまでくれば大丈夫。」
 わずかに乱れた呼吸をはぁ、と一息で鎮めた遊くんが、足を止めてくるりと振り返る。
「はぁ……追いかけて…きたりとか……しないよね?」
 情けないほど息も絶え絶えな私の心配をよそに、遊くんは涼しい顔で肩をすくめる。
「記憶が消えるわけじゃないから絶対大丈夫とは言えないけど、その時はその時でしっぽりと?」
「……意味わかって言ってるのね?」
「わわっ殴らないで!」
「殴るなんて……頭をスライドだよ?」
「それチョップじゃん!」




 ひとしきり攻防を繰り広げた後、大きく深呼吸をする。
 呼吸を鎮めるためだけでなく、これから語られるであろうことへの気構えだ。

 ……やっと落ち着いたな。
 わたしは覚悟を決めて遊くんに向き直る。



「……それで、一体どういうことなの?」
 まっすぐに見つめると、同じように真剣な眼差しが返ってくる。
「……ここがゲームの中の世界だってことは、もうわかってるよね?
 ここははばたき市  プログラムで作り出された、架空の世界だ。」
 遊くんの問いにうなづくと、遊くんはほんの少しだけ痛そうな笑みを浮かべた。
「そして俺達はそのゲームのキャラクター。プログラムで作り出された架空の存在。」
「あ……」
 それはわかりきっていたこと。でも遊くんの口から聞かされると、突然胸を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。
「……もちろんこの世界じゃ、俺を含めたほんの数人しか理解してない真実だけど。」
「そう……なんだ。」
 言葉が見つからずうなだれるわたしに、遊くんはさっきのようにあっけらかんと笑って見せる。
「でも俺、好きだし。」
「え?」
「この世界も、自分の事も、産んでもらって良かったって思えるくらいには好きだから。……例え、プログラムでもね。」
「遊くん……」
 不意打ちのように胸をつかれて涙がこぼれる。
「だから、おねえちゃんは気にしないでよ。」
 照れたようにそっぽを向いて優しい言葉をくれる遊くんに、何度も頷いて涙を誤魔化した。



「……それで、さっきのことだけど。」
 振り向いた遊くんの表情は真剣なもの。わたしも体育座りのまま背筋を伸ばす。
「志波くんと真咲先輩のことだね?」
「うん。おねえちゃんも気付いた通り、見ず知らずの女の子を襲うとか、それを見捨てるなんてことは、本来の二人のキャラクターじゃない。」
「だよね!?だよね!!」
 よかった。やっぱり本当の二人はあんなヒドイことしないんだ。
「でも、それにもちゃんと原因がある。」
「……原因って?」
 遊くんの言葉に思わずごくりと喉がなる。
 プログラミングの世界で、作り上げられたものが勝手に動き出す。そんなことが起きてしまう原因……
 わたしの眼差しを受けて、遊くんは口を開く。


「ウイルスだよ。」
「ウイルス……ってまさか、コンピューターウイルスのこと!!」

 大問題な単語に思わず腰が浮く。
 なにしろうちの会社はゲーム会社だ。PCは業務の必須であり、基本とも言える。
 だから重要なデータが流出しないようにフォルダ管理は厳重だし、対策ソフトでのチェック等には減棒沙汰になるくらい、義務付けられている。
 それでも感染するような新型ウイルスにわたしのPCが感染してたとしたら、下手をすると会社をクビになるかもしれないんだ!
 たとえ実害が出なくてクビは免れたとしても、その対処をする時間は、間違いなくわたしの睡眠時間とか、食事時間とか、シャワータイムだ。

「……ウフフフ……終わりだ。女として終わってる。フフフフ……」
「だ、大丈夫だって!おねえちゃんのPCが感染源とか、そう言うんじゃないから!」
 絶望で笑いだしたわたしに、心優しい遊くんはあわててフォローをしてくれる。
「……だとしても女としては終わりだし。気休め言うくらいなら今すぐ殺して」
「そこまで絶望しないでよ!仕事で女捨てるくらい許されるから!終わってないから!
 それに、このウイルスはおねえちゃんが考えるような、一般的なものとは違うんだよ。」
「……どういうこと?」
 なんとか立ち直ったわたしは、必死に説明を進めようとする遊くんの話を促す。


「ウイルスの名前は……K−19。」
「ケー・イチキュウ……?」

 一般的なものと違うのは、このウイルス自体がプログラムじゃないってこと。」
「?コンピューターウイルスって、他のシステムに侵入してデータを書き変えたり、破壊したり、転送したりするプログラムのことだよね?」
「普通はね。でもK−19は違う。信じられないかもしれないけど、これはプログラムじゃなくて……思念。」
「思念……って、そんなの」
 告げられたのは、予想もしてなかったの言葉。
 そんな具象的でないものが、プログラムに影響を及ぼすわけがない。だってそんなの、まるで心霊現象。

 でも、目の前の遊くんの顔は真剣そのものだし、今わたしの身に起こってることを考えれば、理屈でどうのこうの言えるわけじゃないのは……確実。

「K−19……」
 真実だとしたら、なんて恐ろしいウイルス。まさに超常現象だ。
「その思念の発生のきっかけになったのは、ゲームのユーザーが行った書き込みで」
「書きこみ……あ、もしかしてクレーム?だったらヤダなぁ。」
「大丈夫、むしろみんなが気に入ってくれたから起きた、って言うか。」
「ならいいけど……K−19っていうのはそのユーザーのハンドルネームとか……ん?」

 急に何かがひっかかった。
 どこかで聞いた事があるような

「ケー・イチキュウ……」

 一文字ずつを噛みしめるようにつぶやいてみる。
 違う。形を変えて何度か頭の中で繰り返す。
 ケー・イチク、ケイチク、ケィチク……

 ……!!

「遊くん……その『書きこみ』って、もしかして」
「うん……いわゆる、『二次創作』ってヤツだね。」
「要するに同人作家の妄想力がウイルス化して
 キャラがK−19化……鬼畜化したってこと……?」
「うん、まあ平たく言えば。」
 …………。


「今すぐ実家に帰らせて頂きます。」


 一気に襲ってきた虚脱感と共に、わたしはくるりときびすを返した。












☆☆☆……まあいろいろ流して読んで下さると助かります。版元の方々すいません。
難しいなぁコンピューター。
さてさて、この間の志波&真咲のらしくない行動の謎が解明されました!ってそんな大げさな話じゃないよって感じですが。

あ、念のためお断りさせていただきますが
管理人はもちろん二次創作・同人行為を否定するつもりはございません!
なにしろ自分がウキウキしながらやってる事ですからね!

そしてこのところの更新の遅さゆえ、キリがいいところでこのコンテンツをメインに移そうかと思っております。
このペースで拍手”お礼”とかおこがましいですしね(汗)

真冬の雑草の生長のごとき、のんびり更新ではありますが、これからもよろしくお願いいたします!☆☆☆

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