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□『きっと、彼なら』SS 4編
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きっと、彼なら 〜友好編〜









「そういえば」

 お客さんのいない珊瑚礁。

 マスターは用事を済ませに外に出て、今は瑛くんと私の二人きり。

 手持ち無沙汰のため、ゆっくりテーブルを拭きながら窓の外を眺めていた私は、ふと思い立って口を開いた。

 気だるそうにカウンターにもたれながらも、こまごまと手近な小物を磨きながら、瑛くんは視線だけを私に向ける。

「…………。」

 その顔を見て、私は続けようとしていた言葉の代わりにため息を漏らした。

 そりゃあ瑛くんは珊瑚礁でも学校でも常に猫かぶり続けてるし、しかも今日は一学期期末テスト明けのバイト中で、いつもより疲労感が漂ってるのはわかってるよ?

 だけど……いくらなんでも、その死んだ魚のような目はないと思う。


「……そういえば、なに。」

 きわめつけに、不機嫌極まりない声音。

「……なんでもないですー。」

 私はちょっとだけムッとして、会話するのを諦めた。

「あのなぁ。言いかけてやめるなんて卑怯だぞ?」

「卑怯って……ツマンナイ話だから、もういいよ。」

「やめるくらいなら最初っから言うなよ。気になるだろ?」


 瑛くんの目に無意味に強い光が宿る。意地でも言わせてやる、とばかりに、もたれかかっていた姿勢まで正して、私に向き直ってくる始末。


 ……ほんと、子供だ。この人は。



「……言ってあげてもいいけど?」

 にやり、と我ながら意地の悪い笑みを浮かべて瑛くんを見ると、案の定ムッとした表情を浮かべた顔があった。

「……別に?どうでもいいけど?」

 予想通りの素直じゃない言葉に、私は肩をすくめていかにもどうでもよさそうな態度を装う。

「私だってどうでもいいけど?瑛くんがどうしても聞きたいって言うなら、教えてあげる。」

「俺だってどうでもいいって言ってるだろ?オマエがどうしても言いたいって言うなら聞いてやってもいい。」

 ……気になってるくせに、可愛くないなぁ。

「あっそ。じゃあこの話はオシマイ!さ、仕事仕事!」

 大人な私は非常に大人げなく話を打ち切って、テーブルを拭く作業を再開する。



「……可愛くないヤツ」

「自分だって!」

 ぽそっと呟かれた言葉に反論しながら顔を向けると、拗ねたような瞳にぶつかった。

 ……ああもう。なんか苛めてる気分になるじゃない。


「……今日は七夕だったなって、思いだしただけだよ。」

「……なんだ、そんなことか。」

 これみよがしに大きなため息を吐かれて、ムッとして反論する。

「だからツマンナイことだって言ったじゃない。」

「……でもまあ、オマエらしいかもな。」

 もっと文句を言われると思って身構えていたのに、妙に納得したような態度をとられて面食らう。

「私らしい?」

「ん?いや、別に。」

 聞き返すとなんでもない、と軽くあしらわれた。無意識に声が出たって様子。

 ……なんでもないって言われても

「もしかして悪口でしょ!」

「だから何でもないって。」

「何でもないなら最初っから言わないでよ、気になるじゃない!」

 頬を膨らませて抗議すると、瑛くんは少し目を見開いて、それからにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。


「……言ってやってもいいけど?」

「……別に?どうでもいいけど?」

 これぞ正に売り言葉に買い言葉。

 本当はスゴク気になるのに、瑛くんの表情があまりに憎たらしくて思わず意地をはってしまった。

「俺だってどうでもいいけど、オマエがどうしても聞きたいって言うなら、教えてやる。」

「べ、別に聞きたくないもん!瑛くんがどうしても言いたいって言うなら、聞いてあげてもいいけど!」

 マズイのはわかっていても素直になれない私の言葉に、瑛くんはふーん、と気のない返事をもらして肩をすくめた。

「じゃ、この話はオシマイな。ちゃっちゃと働け。」


 ……案の定しくじった。

 私は唇を尖らせて作業を再開した瑛くんを睨む。

「……瑛くんのイジワル。」

「お互い様だろ。」

 私の視線も文句もどこ吹く風。瑛くんは涼しい顔でカウンターの向こうに消えて行く。


 ……うぅ、気になる!

 気もそぞろにテーブルを拭き終え、布巾を手にカウンターの奥に向かうと、ふわりと香ばしい香りが漂ってくる。

「瑛くん?」

 覗きこむと、さすがに慣れた手つきでコーヒーを淹れる瑛くんが、さっきとは打って変わった穏やかな微笑でわたしを見た。


「……だって作り話だろ、実際。」

「え?」

「七夕の、彦星と織姫の伝説。」

「……そりゃそうだけど」

 突然話を戻されて戸惑いながらも、夢がないなぁと眉を寄せると、瑛くんはそんな私を面白そうに眺めた。

「ホントにいるわけもなければ、ちゃんと年に一回って決まりを守ってるかどうかもわかんない奴らがさ。」

「……瑛くんてホントに情け容赦ないよね。」

 あまりの言い草に瑛くんらしいけど、とため息をつくと、頭に軽いチョップが降ってきた。

「ちょっと空が曇ったら、大丈夫かな?会えるかな?って心配する幼稚園児みたいなのが、おまえらしいってこと。」

「瑛くんヒドイ!」

 さらりと幼稚園児呼ばわりされて、私は仕返しにとチョップを振り上げる。

 もちろんあっさりかわされて空を切る私の手に、そっと湯気の立つコーヒーカップを差し出して、瑛くんが声を立てて笑った。


「あはは、悪い!でも俺、そういうの嫌いじゃないって言うか、むしろ好き……」

「……え」

 思いがけない言葉に思わず瑛くんの顔を見ると、瑛くんの見開かれた瞳に、同じように目を丸くした私が映って


「た、七夕が、だ。勘違いすんな!」

「わ、わかってるよ!」

「あ、ああ。それならよし!」


 弾かれたように背けた瑛くんの顔が真っ赤に染まっていたのは、見なかったことにしてあげよう!


 なんて、真っ赤な顔して思うことじゃないよね……    


 






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ハイ!友好編でした。
………。
七夕関係ねぇ!!

まあ要するに、デイジーも意地っ張りで
似たもの同士の二人。

ちなみに鈍感デイジーは自分が瑛と同じコトしてるの気づいてないけど
瑛はちゃんと気づいててそれが逆に微笑ましい・・・みたいな?
08/7/27



……編集するにあたり、友好編をうっかり全消し。
書き直したら全く違う話になりました。
まあ七夕絡められたからいいとしよう……バックアップは大切です!
09/06/17


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