「コウ!!」
コウの事を考えたせいだろうか。私は咄嗟にコウの名前を呼んでいた。
「…っ、メモ子!」
コウはすぐに私の声に気付いて振り返ってくれたけど、
嵐さんとニーナが相手ではさすがの桜井兄弟も苦戦している様子。
コウが私を助けに来てくれたら残されたルカが不利になっちゃうんだ。
かと言って二人して下がったら、柔道部コンビと先輩たちとの挟み撃ち。
……これじゃ私、ただの足手まといだ。
「メモ子、待ってろ!……クッ、」
焦った顔したコウが、激しい雪玉ラリーの合間に声をかけてくれる。
けど、柔道部の攻撃の手が休まる兆しはない。
「……大丈夫!一人でなんとかする!」
これ以上、足を引っ張るのが嫌で。私はなるべく声に不安が滲まないように声を張り上げた。
思わず助けを呼んでしまったけど、ここには作り置きしておいたたくさんの雪玉がある。
無抵抗で負けちゃうなんて、無様な真似ができるわけない!
「旗は渡しません!」
私は両手にひとつずつ雪玉を握り、先輩たちに向き直った。
「……メモ子さん。確かに僕らは体力に自信があるとは言えないけど、
2対1じゃ君に勝ち目があるとは思えないよ?」
玉緒先輩が困ったように眉を下げて、諭すように言う。
「そもそもこんなの遊びだろ。冷たい思いをする前に、旗を渡した方が利口だぞ。」
聖司先輩の声音もなだめるような優しい響き。
そんなことは言われなくてもわかってる。
でも、昔の私はコウとルカの遊びについてけなくて、いつも二人は私に合わせてくれてた。
大きくなった今でもそれは変わらないけど、でも。
「遊びには遊びの矜持ってものがあるわけですよ!」
一回やるって言ったからには、門限以外の途中抜けはルール違反だ!
力強く宣言した私を見て、先輩たちはやれやれと肩をすくめる。
「仕方ないな……。手加減はできないよ?そんな余裕はなさそうだしね。」
「おい、手荒な真似は……って雪玉くらいじゃ怪我なんかしないか。」
じりじりと間合いを詰めてくる先輩たち。私はとにかく手にした雪玉を思いきり投げた。
「うわっ!」
「っ、冷たいだろ!」
距離もそう遠くないし当たる事は当たるけど、そこは所詮雪玉の威力。
先輩たちは怯むこともなくどんどん近付いてくる。
「……っ、数じゃダメだ。」
焦りをおぼえて思わず下唇を噛んだ時、遠くからコウの声が聞こえた気がした。
「メモ子!オマエならできる!」
「私なら……」
その声に、思わず胸が熱くなる。
こんなにいつも足を引っ張ってるのに、コウは私を信頼してくれてるんだ。
弱気になった自分を鼓舞して、きっと前を睨みつける。
『お守りだ』
「さ、そろそろ観念してくれないか?」
「意地を張ってもいいことなんてないぞ?」
伸ばされた手がもう少しで届きそうな距離で、先輩たちが勝者の余裕を感じさせる笑みを浮かべて。
「……先輩、ごめんなさいっ!」
別にそれがムカついたってわけじゃないけど、コウからもらった雪玉をその顔に叩きつけた。
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