「このくらいでいいかなあ。」
雪玉を大量に作り置きして一息ついたところに、雪で防御壁を作っていたルカとコウが戻ってきた。
「お、いっぱいだ。頑張ったね、メモ子。」
「おお、こんだけありゃ充分だ。上出来、上出来。」
「ありがと!ルカとコウの作った壁もすごいね。」
雪合戦のためと言うより、すでに雪祭りレベルのテンションで作ってたもんな……。
二人の作り上げた防御壁はかなりの鉄壁具合。
「さーて、どうする?コウ。」
「そうだな……とりあえず、相手になりそうなのは柔道部の方か。」
あ、作戦会議!
私もあわてて居住まいを正し、二人に向き直る。
「嵐さんとニーナは体力もあるし運動神経もいいもんね。強敵だよ!」
「……だな。まずはそっちを全力で潰すか。」
つ、潰すって……!
「で、でも先輩たちもコンビネーションはいいもんね。特に玉緒先輩の頭脳プレイは手ごわいかも!」
「……そっか。んじゃ会長から殺っとく?」
や……殺るって!
「メンドクセー……まとめて逝っとくか。」
「ま、セイちゃんはいつでも消せるしね。」
「なんかいちいち表現が不穏なんだけど!」
二人からたちのぼる黒いオーラを感じて思わず突っ込むと、二人がうって変わった優しい微笑みで私を見た。
「ってことで、オマエはいい子で留守番してて?」
「だな。旗の守り、頼むわ。」
「うん!」
なんか二人が怖いから、その方がいい。私、いい子にしてるからね!
……とはいえ、一人で旗を守るのはちょっと不安かも。
旗を取られても即負け!ってわけじゃないけど、勝敗に関わるのは確かだ。
私の表情が曇ったのに気付いたんだろう。ルカとコウが顔を見合わせる。
「あ……」
「大丈夫だよ。」
あわてて取り繕おうと私が口を開くより先に、ルカの優しい声。
「誰か攻めてきたら、呼んで?すぐ助けに来るから。」
ルカが手袋を外して、私の前に小指を差し出して、約束、と私の小指に絡める。
じわりと伝わる温もりが、心に募った不安を溶かして。
「ほら、コレ持ってろ。」
少し照れくさそうにコウが手を差し出してくる。
「お守りだ。いざって時はコイツを思いっきりぶつけてやれ!」
いや……お守りってコレ、ガッチガチに握った雪玉なんですけど。つか氷玉?
「……ええと、最善を尽くします。」
「おお、オマエならできる。」
や……コレは投げちゃいけないと思う。人として。
文句を言おうと見上げたのに、そこにあるコウの瞳が私を元気付けるみたいに優しいから。
「……頑張るね!」
さっきまでの不安なんて嘘みたいに吹き飛んで、私は満面の笑みで二人を送り出した。
間もなく始まった、激しい雪合戦。
開始の合図と共に陣を飛び出したルカとコウは、同じように飛び出してきた嵐さんとニーナと戦闘に入った。
どうやら先輩二人はしばらく様子を見るらしく、陣に動きはない。
目で追うのがやっとな勢いで飛び交う、雪玉のラリー。
雪合戦ってあんなに至近距離でやるものだったっけな。
……やっぱ残ってよかった。
ほっと息を吐いた時、視界の隅でなにかが動いた。
「……っ!?」
「おい、気付かれたぞ!」
慌てて目を向けた先から聖司先輩の声。
しまった、油断してた!
「彼らが気付いて戻って来たら面倒だ。設楽、いいから先に!」
玉緒先輩の冷静な指示が飛んで、続いて防御壁の向こうから先輩たちが姿を見せた。
「いつの間に……!」
慌てて雪玉を手に臨戦体勢に入るものの、撃退するには距離が近すぎる。おまけに2対1だ。
「メモ子さん、出来れば抵抗しないでくれないかな。」
困ったような笑顔で、玉緒先輩が優しく諌めてくる。
「そうだ。大人しく旗を渡せば悪いようにはしないぞ。」
そして聖司先輩の、思わず揺らいでしまいそうになるほど綺麗な微笑。
だけど、ルカとコウを裏切るようなこと、できるわけがない!