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□『男の子に靴紐を結んでもらう』SS 5編
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03・ × 志波
「志波くん、今帰り?」
部活を終えて帰ろうとしたら、校門の手前でときめきに呼びとめられた。
「一緒に帰らない?」
オレと一緒で楽しいのだろうか、と迷いもするが、飽きずに何度も声をかけてくるんだから構わないんだろう。
「でね、そしたらはるひちゃんが……」
並んで歩くときめきの頭は、オレよりずっと低いとこにある。
話す声はふわふわして高いし、その肌はすべすべしてて白い。
オレは男で、ときめきは女。
「文化祭のクラブ出展の準備が間に合わないかも〜……」
オレは野球部で、ときめきは手芸部。
「文化祭が終わったら期末テストの勉強もしなきゃ!」
オレは補習組で、ときめきは学年トップクラス。
「……って千代美さんが言うから、つい笑っちゃった。」
無口で無愛想なオレと違って、ときめきはよく喋ってよく笑う。
『どうして、ときめきと一緒にいるんだろう?』
どんなに気を付けてゆっくり歩いても、オレの半分くらいの歩幅で歩く
(っていうのは大げさか。でもそう思えるほど一歩が小せぇ)ときめきとは、なかなかペースが合わない。
どうしてオレとときめきが一緒にいられるんだろう。
オレとときめきはこんなに違う生き物なのに。
現にこうやって一緒に帰ったり、偶に休日にデート(……で、いいんだよな?)したりして、それは文句の付けようがないくらい楽しい。
だったらオレは何が不満なんだ?
考えたって答えなんて出やしねぇ。
だったらごちゃごちゃ考えてないで、ときめきの話に相槌のひとつでもいれてやる方がよっぽど
「志波くん?」
「……ああ、悪い。」
不意にときめきが立ち止まった。 押し寄せてくる漠然とした疑問に気をとられて話を聞いてなかったことを詫びると、ときめきはふるふると首を振って心配そうにオレの顔を見上げた。
「最近なんか変だよ?なにか悩み事?」
「…………べつに」
普段は呆れるほど鈍くてトロいのに、どうしてこんな時だけ鋭いんだろう。
オレの答えに納得できない様子のときめきが、困ったように眉を寄せてことんと首と傾げた。
「もしかして、わたし、うるさい?」
一人で喋ってる自覚はあるんだな。
本気で心配そうなときめきの表情に、オレはニヤリと笑ってみせる。
「いや、そんなことない。むしろ……」
むしろ、心地いい。ときめきを安心させようと口を開いたのに、オレの口はその言葉を音にせずに押し止めた。
心地いい……はずだ。いつも。
いや違う、いつもじゃない。例えば、今日みたいに
「………むしろ?」
なかなか続かないオレの言葉に焦れて、ときめきが珍しく急かしてくる。
まっすぐに見上げて来るときめきの瞳に、微かに目を見開いたオレの顔が映った。
「……うるさくはない。気にするな。」
その瞬間、気づいてしまった疑問の正体に思わず視線を逸らす。
……ガキか、オレは。
「?志波くん顔赤い。」
「あんまり見るな。……行くぞ。」
「あ、うん。……わっ」
「!?」
照れくさいのを誤魔化すように歩き出したオレの背中に、いきなりときめきがぶつかってきた。
「ご、ごめん志波くん!」
「いや……どうした?」
「えっと、靴紐解けそうだなぁと。」
「……ちゃんと前見て歩け。」
ぶつけた鼻をさすりながらへへ、と笑うときめきの足元を見ると、今にも解けそうなスニーカーの紐。
それに気をとられて俺にぶつかるくらいならさっさと結び直せばいいのに。……やっぱりトロい。
「ちょっと待ってて……」
「ちょっと持ってろ。」
あわてて屈もうとするときめきの頭から、自分の持ってたスポーツバッグの肩紐をがばっとかぶせる。
「え?志波くん?」
それを落とすまいとときめきが動きを止めた隙に、オレはさっさとときめきの足元にしゃがみこんで靴紐を手にとった。
「……自分でできるよ?」
「スカートで屈むな。」
「え?」
「……(やっぱり鈍いな)オレがやった方が早い。」
「うぅ〜……」
……ほんとにガキだ、オレは。
ときめきがオレがいない時の話をするのが楽しそうだったからって、一緒にいる時間を疑うとこまでいじけてどうする。
「……できたぞ。」
「ありがとう!」
紛れもなく、オレだけに向かうときめきの笑顔。
さっきまでのもやもやが嘘のように晴れていく。
『靴紐を結ぶほんのわずかな時間でも、ほったらかしにされるのは気に食わない』
……なんて言ったらおまえはどんな顔をするんだろうな?
03.相当侵食されている 共有できない時間まで
『友好→好き』に変わる瞬間をイメージしてみました。
志波は最後の「もしオレが〜したら、おまえはどうする?」的な確信犯なのがいいと思います。
update 09/06/11
「……ところで志波くん」
「ん?」
「さっき靴紐結ぶとき、暗にわたしのことトロいって言った?」
「……言ってない。(やっぱり時々鋭いなコイツ)」
「絶対言った!」
「言ってない。……その時は。」
「『は』って言った!」
(……と、いうようなことを話しながら楽しく下校した)
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