ときめきバグりある!2nd life

□23・おひとりさまは大人の女の得意技
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 若王子先生によって、取調室ならぬ化学準備室に連行された私は
 不審者扱いされている状況だとはいえ、灯台に次ぐ聖域への到達に打ち震えていた。

 あああ、化学準備室!
 事故チューの現場であり、ビーカーコーヒー専門店であり、管理責任者・若王子貴文の名の元の密室!!
 どうするの、そんなところに連れ込んでどうするつもりですか!?いやむしろドウニデモシテクダサイ(壊)
 鼻息荒く胸を高鳴らせる私を椅子に座らせ、机ごしに私を見下ろした若王子先生は、しかしながら照明を背後から受けて影を落とした端正な顔を引き締めて告げた。



「僕、今日は不審者対応責任者なんです」
「あの、私けして怪しい者ではなく!!確かに行動については怪しいといわれても弁解の仕様もないですが、けして生徒の皆様方に害を為す者では!!」

 どうにでもしてとか嘘ですから!通報だけは勘弁してください!通報だけとか言ったけど、どうしてもはね学祭は満喫したいので監禁オア軟禁も勘弁してください!!
 ここまできて強制送還とかどんなお預けプレイ!もう二度と訪れない今日この瞬間がぁぁぁぁぁ!!



「りあるさん」

 必死で土下座して弁明する私をよそに、若王子先生はいつもののほほんとした声音で私を呼ぶ。
「はい……」
 森川さんの癒しボイスに誘われ、地に伏したまま涙の滲んだ眼で見上げると、変わらぬ優しい笑顔があった。
 思わずぽわーんとして見とれていると、ことんと音を立てて机の上にビーカーが置かれる。


「カップがなくて申し訳ないですが、コーヒーでもどうぞ。よければはねがくまんじゅうも」
 なんすかその伝説のコンビネーション!?
 若王子先生ってばなんかもう、普通に出しすぎじゃない!?もっと勿体つけて出した方がよくない!?
 特に後光が差すでもなく、効果音がするわけでもないのは当然と言っちゃ当然だけど。
 って、それよりも!不審者として連行された私に対して、そのなごませようというお気遣いの溢れた行為はどういうつもりなんだろう?


「あの……できれば通報は勘弁して頂きたいのですが」
 疑問も相まって膨らんだ不安を、思い切ってストレートにぶつけてみる。
 そんな悲壮感を隠し切れない私を見て、若王子先生はいいお年の成年男性とは思えないかわいらしい仕草で首を傾げた。

「通報ですか?」
「だから、その……私、不審者なんですよね?」
「ええまあ。生徒たちからはそのように報告がありました」
 先程、感激のあまり号泣していた時に聞こえてきた声の主を思い出す。
 校門前のモブキャラめ……密告したのはあいつらに違いない。
 元の世界に戻ったら、ありえないくらいボリューミイなアフロキャラにリテイクしてやる!
 ええその場合怒られるのは私だけどな!


「けれど、りあるさんのことは、前もって佐伯くんから聞いていたので」


 ……はい?
 思いがけない言葉に思わず顔を上げた私の疑問の表情をみて、若様は気遣わしげな笑みを浮かべて言葉を付足した。


「佐伯くんが、りあるさんという方が来られるのに、自分は忙しくて案内ができないからと」
「……ええと」
 予想外の若様の言葉に、ぐるぐるする頭を必死に整理しようと眉にぐぐっと力を入れる。

 なんだそれ。どういうこと?
 佐伯くんって、本気で頼むから文化祭には来るなって言ってたあの人だよね?
 確か信頼関係皆無だから、なにしでかすか不安で文化祭どころじゃないってチョップ連発してきたあの人ですよ。
 ああ、そうか。だからか。
 自分が面倒みられないから、先生に監視を頼んだと。
 若様に軟禁されて行動を封じられるなら本望だろうという、我が身かわいさに他人を身代わりにすると頭脳プレイか! 
 
 騙されるものかと膝の上で両方のこぶしを握った私に、若王子先生が、いかにもらしいふわりとした微笑みを向けて言葉を紡ぐ。
 

「はばたき市に来て日が浅いので、情熱的なまでに挙動不審になってると思うけど、悪意はない方だから見逃してあげて欲しいと」
「っっ!!」
 ダメだ。
 ひねくれた考えで誤魔化して堪えていた涙腺が決壊する。
 ごめん、瑛。絶対迷惑かけないって約束したのに
 そんな信頼関係ないって言われて、絶対守ってやろうって決意したのに

「うわーん!ごめん瑛ぅぅぅ!!ピーヒャラ浮かれて完全に忘れてた!!」
「青春ですねえ」

 やべぇ自分本気でダメすぎる。深く反省した私の懺悔をどうとらえたのかはわからないけど
 ほのぼのとしたセリフで私を見守ってくれる若王子先生に、脊髄反射で萌えを感じる自分に呆れつつ
 口でははねつけて、苛立ちを隠さずに攻撃も辞さず、それでも最後は絶対ほっとけない。その不器用な包容力を、改めて好きだと思った。






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