ときめきバグりある!2nd life

□22・痒みは痛みで吹っ飛ばせ
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 珊瑚礁の窓から夕陽に染まる海を眺める。
 穏やかに凪ぐ海に物足りないと文句を言いながら、それでも楽しそうに波にのる瑛の姿。
 眩しさに目を細めると、網膜に焼きつく光が視界を塞ぐから、瞬きで追い払う。

 今日は珊瑚礁の定休日。
 晩御飯のおかずがぐつぐつ煮込まれていく、いい匂いが漂う店内。
 なにも予定はないはずなのに、なぜだかそわそわと落ち着かない。
 ここは私の場所じゃないのに、本当の場所は別にあるのに。そういう現実から目を背けているせいだろうか。

 毎日は楽しくて、このまま何も考えず過ごすことができればどんなにいいだろう。
 いつか失う時間なのに、無防備に受け入れすぎた感が否めない。
 その時がきたら、いくらでも泣き暮らす覚悟はできているけど。


 立ち上がったはずみで、手首の鎖がしゃらりと鳴った。
 微かな音だけどやたら耳につくのは、まさにこの鎖に縛り付けられているから。

「鬼畜化チェッカー」
 あの声音でアイテム名をコールした後、思わずため息をついたのは、自分のネーミングセンスに絶望したからではない。
 もちろんややモノマネのクオリティの低さにでもない。

 なにしろ今のところ、まだ全員と出会うとこまで進んでいない。
 出会えたキャラは、瑛、志波くん、ハリー、天地くんの四人で、あと出会えてないのは、クリス、若王子先生の二人。
 なんだか少ないような気もするけど、ときメモのことで間違うわけはない。

 志波くんとハリーとは最近会えてないけど、フラグは立ってる気がする。だって一緒にニガコクした仲だもの。
 天地くんとは、会えばケーキを一緒に食べる仲になったし!え、支払いは私もちですけどなにか?

 遊くんに会えたら、一度みんなにどう思われているかを聞いてみたいところなんだけど、最初に会ったきり会えていない。
 そう、もちろんゲームで何度も見てるからそんな気はしないけど、ただ一度しか会ってない。
 そう、あの時間が止まった時に私を連れ出してくれた……

「……あれ?」
 そこまで思い出して、首を傾げる。おかしいな。なんだか記憶が曖昧だ。
 あの時って、なにがあったんだっけ?


「りある、メシできた?」
「おかえりダーリン!」
「そういうのいいから、メシは?」
 思考の海に沈む前に、さんざん遊び倒してきた瑛が帰って来た。
 嬉しさとほっとかれた寂しさをこめて、全身全霊で迎えたら、あっさりと流される。
「……亭主関白ですかコノヤロウ」
「だれが亭主だよ!」
 そしてすっかり冷静に対処できるようになったかと思えば、未だ二段構えで赤面してくれるんだから、もう。
 なんだよその反応!思うツボだよちょっとは気をつけなよ!
「うわっ、ちょ、鼻息荒いって!りあるマジできもい!」
 そこまで引かれると、けっこう本気で凹むのですよ?瑛さん。

「……ご飯もうすぐできるから、ちゃっちゃと着替えてきなさい」
「わかってるよ、母さん」
 傷つきがてらに上から言うと、地味にムカつく逆襲が来た。むっとして、濡れた頭をがしっと掴んでやった。
「誰が母さんだコラ。そこは意外性ついて母ちゃん呼びでお願い」
「そこかよ!つか母ちゃんって……。普通そこはママって呼んで、とかだろ?」
「だって高校生男子がママとか寒い。超寒い」
「ちょ、呼んでないから!なんだよその目、寒いと言いつつ生暖かい目で見んな!マジで呼んでないから!」

 怒った顔を朱に染めながら、瑛は私を見下ろしてにらんでくる。マジ可愛い。
 しかし、頭を掴まれたままよけないと思ったら、すでにセットが崩れてるから許されているみたいだ。

「早くシャワー浴びておいでよ」
 瑛の綺麗な顔に、額から流れた雫がつたうのを指で拭って、今更ながら髪濡れ瑛の色気に気付いてうぐっとなる。
「わかってるよ」
 返事とは逆に、されるがままの瑛は、くすぐったそうに目を細めて。
 ひんやりした頬の感触と、そのやたら色っぽい表情が
 なんだかすごく恥ずかしくて反射的にひっこめてしまった指と、目のやり場に困って眉を下げる。
「えっと……海水、べたつくよ?」
「外の水道使ったから、これは真水。だからヘーキ」
「じゃあ、ちゃんと拭かなきゃ風邪ひくよ?」
「そうかもな」
 私の頬が赤くなってるのに気付いているからだろう。なんだかやけに余裕の瑛が憎らしい。
 ぽたり、と冷たい雫が落ちてきて、思わずぎくりと身をすくめる。

「こういうの、困るよ?」
「……知ってる」
 ドキドキの限界を訴えると、一言であっさりと流された。
 なのに、瑛の瞳がいつもと違う表情で私を見つめるから。
「こういうの、よくないよ」
「いいよ。無理すんな」
「……わかった。無理しない」

 そう観念した瞬間。欲求が衝動に変わる。
 背伸びをして私からくちづけると、にやりとしてやったりで笑った唇も、熱をもった頬も、やっぱり塩の味がした。






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