ときめきバグりある!2nd life
□21・世界は今日も周ってる
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「今日もお疲れ様でした!」
「お疲れ。……さ、勉強しよ」
珊瑚礁の片づけを終えて声をかけると、ホントにお疲れモードで若干不機嫌そうな瑛が、ぐっと伸びをしながらぽつりとつぶやく。
時計を見ると、少し心配になるような時間ではあるけど、色々ノルマの厳しい瑛に、気遣うような発言は逆効果なんだけど
「ほどほどにね?」
ついつい言葉をかけると、湯気のたつマグカップを手にした瑛が、階段の手前で小さく振り返る。
「なんだよ、ほどほどって?」
……ああ、ホントにご機嫌斜め。
「いやほら、もう遅いし。睡眠時間は大事でしょ?」
「は?ガキじゃあるまいし。」
「でもほら、睡眠不足はお肌の大敵」
「若いから大丈夫だし」
「都合いいなぁ……。コンタクト痛くて入らなくなるよ?」
「……ガマンするから、ヘーキ」
「そこガマンしちゃだめだから!もう……眼鏡にすればいいのに」
「……ヤダ」
「わかってるよ。……眼鏡瑛、かっこいいのに」
「っ、人をメガネザルみたいに言うな!」
「ごめん(やべ…これトラウマだったか)」
「まったく……ああもう、時間の無駄」
今日の王子のご機嫌はいつにもまして芳しくなく、ぷりぷりしながらぷいっとそっぽ向いて、そのまま二階へ上がってしまった。
うーん……難しい。
合鍵を使って珊瑚礁の施錠をしながら、そういえば瑛におやすみを言ってないことに気付いた。
とは言え、あのご機嫌では声をかけづらい。オヤスミの一言でも、神経を逆なでしてしまいそう。
迷いながら、灯台に向かって歩き出す。二階を見上げると、いつもどおりカーテンが開いたままの窓から光が漏れている。
けど、瑛の姿はそこにはない。
「……おやすみ、瑛」
仕方なしに小さな声で呟いて、未練を断ち切るように、足を速めた。
ああ、なんだか味気ない。
灯台のドアの、がちゃんという鍵の外れる重い音と、ドアを開く軋む音。手さぐりで電気のスイッチを押すと、小部屋に明るい灯がともる。
いつもは虫が入らないように急いでドアを閉めるけど、今日はやっぱり少し心残りで。
閉じかけたドアが完全に閉まる前に止めて、瑛の部屋の窓に目をやると、ひょこっと出てきた影が不機嫌な仕草でカーテンを閉めた。
途端、さっきまで私が歩いていた道が、薄闇に閉ざされる。
「……マジか」
呟く。どうして今まで気付かなかったんだろう。
夜、私が灯台へ行く時は、いつもこの道は瑛の部屋の明かりに照らされていた。
それはたまたまというか、自然とそうなるものだと思っていたんだ。
だけど、そうじゃなかった。瑛が部屋のカーテンを開けてくれていたから、そうだったんだ。
ただカーテンが開いてたんじゃない。私が灯台に入るまで、開けてくれていたんだ。
どさっとおもいっきりベッドに倒れ込んで、じわじわと湧き上がる、なんとも言えない感情を仕舞い込むように枕を抱きしめる。
瑛の行動に、深く深くかかわる自分を思って身悶える。
だって、珊瑚礁から灯台へ行く時だけじゃない。 夜が遅くなって、そのまま灯台へ帰って来た時も、だ。
遅くなったっていっても、宵っ張りの瑛が寝るような時間じゃない。夜に灯台のドアを開ける音は、珊瑚礁までは必ず届く。
瑛は、その音が聞こえるまで待って、私が灯台に入るのを確認して、さっきみたいにカーテンを閉めるんだ。
今日みたいに、疲れて不機嫌なときでも。
胸が、ぎゅうっと掴まれたみたいに苦しい。
どうしよう、すごく申し訳ないのに……ものすごく嬉しい。
「ありがとう、瑛」
届くわけもないのに、気持ちが溢れるままに呟くと、目の端にじわりと涙がにじんだ。
君のことが大好きだ
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