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□『男の子に靴紐を結んでもらう』SS 5編
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02・ × 姫条








「なんじゃぁこりゃぁ!」
 後ろを振り返ったオレは思わず呟いた。
 ほんの30分前まで人もまばらやった観客席は、いつの間にやらこれでもかっていうくらい生徒達で溢れてた。
 いや、生徒だけやない。よう見れば他校の制服の生徒やどっかのおっちゃんまでがずかずか入り込んでる。(いや別に入場は自由やけども)


「……これも甲士園優勝効果やな。」

 そう、一ヶ月前の夏の甲士園で全国制覇を成し遂げたはば学野球部の、今日は定期練習試合の日。
 かと言って普通の練習試合ならしょっちゅう平日にやっとるけど、こんなにギャラリーが集まってくることはない。
 普通の練習試合とどこがちゃうかと言うと、今日が日曜日ってことと近くの市民スタジアムをわざわざ借りてるってこと
 そして


「本日は応援よろしくお願いします!」

 観客席の最前列にずらりと並んだ眩しい笑顔のチアリーディング部。これが見られんのは、三ヶ月にいっぺんの定期練習試合だけなんや。

 いやいやいや、いくらはば学チア部がカワイイ子ぞろいやからとか、下に短パンはいてるとは言え健康的な美脚が見放題やからとか
 そんな理由でわざわざ日曜に応援に来たりせぇへん。(今はな!昔は昔や)
 このギャラリーの多さ……それも男子率の高さから言うて、それを目当てに来てるやつは多いやろけどな。

 けど、オレの目当てはそんな不特定多数のチアガールやない!
 このチア部の中でもひときわ可愛くひときわ眩しい、ときめき メモ子ひとりだけや!!(オレの女神!)


 ……せやのに、その肝心のメモ子がおらへん。
 こんだけギャラリーが増えたんにも気付かんほど必死に探しとったっちゅーのに。(まさかオレがメモ子の姿を見間違うわけないしな……)

「あれ、姫条くんも来てくれたんだ」
「メモ子!」

 ウワサをすればの女神の登場に、オレだけやなく周囲の奴らまでがざわめく。
 どうやら前に並んでるんは1・2年だけらしい。
 本来夏が終わればメモ子達3年生は引退やけど、はば学では引退後も自由に部活に参加してええってことになってるんや。試合には出られへんけどな。
 そしてこないだまでチア部のキャプテンやったはメモ子、甲士園中継でもスポーツ新聞でも、取材されまくりの映りまくりやった。
 今の周りの反応からして、その惜しげもなくさらされた美貌と笑顔とプロポーションに魅了された奴は今までの比やなさそうや。(今までも蹴散らかすのに苦労してたっちゅーのに!)



「あれ、メモ子。どこ行くん?」

 定位置であるはずの前列の中心(つまりオレの目の前)ではなく、観客席の間の通路の階段を昇り出すメモ子をあわてて呼び止める。

「3年はもう引退した身だからね〜、後ろで応援。」
「そ、そうなんや。」

 しまった。
 オレとしたことがチェックが甘かった!
 オレはあわてて人込みを掻き分け、メモ子の歩いて行った方に移動しようと立ち上がる……って、なんでこいつらも付いてくんねん!
 ぞろぞろとなんかの行進のように動き出す周囲に思わず舌打ちをする。
 アカン、オレが思ってる以上に甲士園効果は大きいらしい。



「わっ」
「メモ子!?」

 持ち場に着いてグラウンドに向き直ろうとしたメモ子が、声を上げて前につんのめる。
 あわてて手を伸ばして肩を支えると、目を丸くしたメモ子がありがとう、と小さく呟いた。(どよめく周囲。優越感!)


「……なんか踏んだ。」

 眉を寄せるメモ子の視線を追って足元を見る。

「あ、靴紐。」

 どうやら解けた靴紐をもう片方で踏んでしまったらしい。こういう抜けてるところもめっちゃ可愛いと思う。

「もー、しゃぁないなぁ。じっとしとき。」
「あ、姫条くん……」

 メモ子の両手には応援用のポンポンがついてるから、オレがしゃがみこむ方がずっと早かった。
 オレはメモ子の一段下におるから、しゃがみこんでも魅惑の生足は視界の外。
 この状況ならさり気なく視線をやっても誰も気付かへんとは思うけど、なんや妙に恥ずかしくて視線なんか上げられへんし。
 かすかに震える指でなんとか靴紐を結び終えて(オレってこんなに純情やったっけ?)、勇気を出して顔を上げようとしたら


「あ」
「!?」

 小さな声と共に頭に降り注いできたしゃかしゃかした雨。

「……ポンポンつけてたんだった。」
「?メモ子」

 人の頭にポンポンをかぶせると言う謎の行動に、戸惑いながらも犯人の名前を呼ぶ。

「ん〜……なんか、姫条くんを見下ろすの、新鮮だなぁと。」
「そりゃまぁそうやろけど。だからってなんで」
「うん……なんか」



「触りたいなぁって」
「!!」
 くしゃくしゃとしたポンポンの感触の中、それだけ滑らかなメモ子の指が、するりとオレの頭を撫でた。
 アカン、こいつホンマに天然や。
 いつもの無邪気なスキンシップに他意のない思わせぶりなセリフ。
(それをいちいち真に受けとったら身ぃもたへんって、重々承知の上やのに)


 ……やのに、さり気なく見上げたメモ子の顔が  


「きゃぁっ!」
「ときめき メモ子、早退します!」


 一気にわき上がる衝動の元、メモ子を抱え上げたオレは、誰にともなく宣言しながらその場から走り出す。


「き、姫条くん!?」
「文句は後でたっぷり聞きます!」





 ……これ以上ないってくらい、真っ赤に染まっていたから







02.ヨコシマな気持ちがボクラの原動力


千載一遇のチャンスは何度も巡ってくるけど、それをモノにできないときメモキャラたち(笑)
いやいや、それは愛ゆえでメモ子ちゃんを大切にしたいゆえですが……もどかしい。
DS版GS1にも大接近モード付けて下さい!


update 09/06/10


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