Trust Me?
□vol.5 Trust Me
1ページ/29ページ
1・ ひとこと
文化祭の出し物と言えば、やっぱり模擬店。しかし高校の文化祭で出せる物となるとどうしても限られてくる。
故に、とかく競争率が高い。
それも定番である喫茶店とくれば尚更だ。
実際、去年の文化祭では、もつれにもつれた話し合いの末の抽選を外し、あたしのクラスは作品展示になった。
「天堂くんのクラスの第一希望は喫茶店だったな。大丈夫、他に申告したクラスはないよ。」
「・・・ホントに?」
「こんな嘘をついてどうするんだ?」
文化祭実行委員会でもある生徒会の一員、氷上 格は苦笑を浮かべて至極まっとうな返答をした。
「だって、争奪戦になるの覚悟してきたから。去年はひどかったでしょ?」
いざと言うときのための戦力として連れてきた、長身強面の志波 勝己の『話が違う』と言いたそうな視線を感じながら、あたしはあわてて氷上に同意を求める。
「ああ・・・。例年、模擬店の権利獲得には必要以上に時間を消費する。だが今年はちょっと妙なことになってね。」
うんざりしたように腕を組んだ氷上に、志波が眉をひそめた。
「妙なこと?」
「若王子先生のクラスが、『ディスコ』をやりたいと申請してきたんだ。
それを聞きつけた他のクラスも対抗心を燃やしたのか、やたらと変わった出し物の希望が増えてね。
そういった出し物の審査に時間をとられるのは避けられないが、お陰で通常の喫茶店の申請は他にない。すんなり通るはずだよ。」
「それは好都合・・・だけどまた、若ちゃんってば。よりによってディスコって・・・」
ホントあの人いくつなんだろ。ため息をつくあたしを見て、氷上がいやいや、と小さく手を振る。
「確かにいかがわしい印象を受けないこともないが、内容としてはそう呆れるようなことでもないんだ。
騒音の対策等もよく練られているし、計画書の内容は実行部としても参考にしたいくらいだよ。」
「さすがだな・・・若王子先生。」
「・・・自分が楽しみたいだけだよ、若ちゃんは。」
氷上と志波の若ちゃんに対する好感度があがったのを見届けて、生徒会室を後にした。
しかし、ここからがまた問題。
「そんなんで若王子のクラスに勝てると思ってんのかよ!?」
「そっちこそ、真面目に考えなさいよ!」
若王子学級への対抗心の波は、少し遅れて我がクラスにも押し寄せ、壮絶な論争を巻き起こしていた。
「ここはメイド喫茶にするしかないだろ!」
「どう考えたって執事喫茶の方がいいでしょ!」
特に議論に加わる理由のないため、教室の隅っこで傍観するあたしと志波をよそに、完全に二分化した生徒たちは互いに主張を譲らない。
「・・・どっちにしても、内装はフリフリしてればいいのかな?」
「オレが知るか。」
このままじゃ作業ができない。なんとか話を進めようと話をふってみるものの、興味のなさそうな志波はつれない答え。
やむなくあたしは志波が好きそうな話題に切り替え、無駄に過ぎていく時間をやり過ごすことにした。
「そういや喫茶ヤンプリのシフォンケーキ、美味しかったな〜。あれ、どこの店だっけ?」
「ショッピングモールにある専門店だ。他にも野菜のタルトが絶品で」
「へぇ〜、珍しいね?瑛に教えてあげようっと。」
「・・・・・・無自覚か?」
「ん?」
食べ物の話題に思った通りの食いつきを見せる志波が、突然不機嫌そうな表情を浮かべた。
「どうかした・・・」
「俺たちは天堂のメイド姿が見たいんだ!!」
「私たちは志波くんの執事姿が見たいのよ!!」
尋ねようとしたあたしが口を開くより早く、またも突然横波に襲われる。
「・・・なんで議論の争点が、あたしと志波になってんのさ。」
「・・・オレが知るか。」
思わずため息を吐きながら志波を見ると、そこにはいつも通りのポーカーフェイスな顔。
「天堂頼む!メイド服を着ると言ってくれ!!」
「志波くんは見た目はちょっと怖いけど優しいから、嫌だなんて言わないわよね!?」
「だぁぁ!ウルサイっっ!!」
「・・・諦めろ。」
一瞬感じた違和感は、祭りの前の喧騒にあっという間にかき消された。