Trust Me?

□vol.5 Trust Me
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   1・ ひとこと



 文化祭の出し物と言えば、やっぱり模擬店。しかし高校の文化祭で出せる物となるとどうしても限られてくる。

 故に、とかく競争率が高い。

 それも定番である喫茶店とくれば尚更だ。

 実際、去年の文化祭では、もつれにもつれた話し合いの末の抽選を外し、あたしのクラスは作品展示になった。



「天堂くんのクラスの第一希望は喫茶店だったな。大丈夫、他に申告したクラスはないよ。」

「・・・ホントに?」

「こんな嘘をついてどうするんだ?」

 文化祭実行委員会でもある生徒会の一員、氷上 格は苦笑を浮かべて至極まっとうな返答をした。

「だって、争奪戦になるの覚悟してきたから。去年はひどかったでしょ?」

 いざと言うときのための戦力として連れてきた、長身強面の志波 勝己の『話が違う』と言いたそうな視線を感じながら、あたしはあわてて氷上に同意を求める。

「ああ・・・。例年、模擬店の権利獲得には必要以上に時間を消費する。だが今年はちょっと妙なことになってね。」

 うんざりしたように腕を組んだ氷上に、志波が眉をひそめた。

「妙なこと?」

「若王子先生のクラスが、『ディスコ』をやりたいと申請してきたんだ。

 それを聞きつけた他のクラスも対抗心を燃やしたのか、やたらと変わった出し物の希望が増えてね。

 そういった出し物の審査に時間をとられるのは避けられないが、お陰で通常の喫茶店の申請は他にない。すんなり通るはずだよ。」

「それは好都合・・・だけどまた、若ちゃんってば。よりによってディスコって・・・」

 ホントあの人いくつなんだろ。ため息をつくあたしを見て、氷上がいやいや、と小さく手を振る。

「確かにいかがわしい印象を受けないこともないが、内容としてはそう呆れるようなことでもないんだ。

 騒音の対策等もよく練られているし、計画書の内容は実行部としても参考にしたいくらいだよ。」

「さすがだな・・・若王子先生。」

「・・・自分が楽しみたいだけだよ、若ちゃんは。」

 氷上と志波の若ちゃんに対する好感度があがったのを見届けて、生徒会室を後にした。








 しかし、ここからがまた問題。


「そんなんで若王子のクラスに勝てると思ってんのかよ!?」

「そっちこそ、真面目に考えなさいよ!」

 若王子学級への対抗心の波は、少し遅れて我がクラスにも押し寄せ、壮絶な論争を巻き起こしていた。

「ここはメイド喫茶にするしかないだろ!」

「どう考えたって執事喫茶の方がいいでしょ!」

 特に議論に加わる理由のないため、教室の隅っこで傍観するあたしと志波をよそに、完全に二分化した生徒たちは互いに主張を譲らない。

「・・・どっちにしても、内装はフリフリしてればいいのかな?」

「オレが知るか。」

 このままじゃ作業ができない。なんとか話を進めようと話をふってみるものの、興味のなさそうな志波はつれない答え。

 やむなくあたしは志波が好きそうな話題に切り替え、無駄に過ぎていく時間をやり過ごすことにした。

「そういや喫茶ヤンプリのシフォンケーキ、美味しかったな〜。あれ、どこの店だっけ?」

「ショッピングモールにある専門店だ。他にも野菜のタルトが絶品で」

「へぇ〜、珍しいね?瑛に教えてあげようっと。」

「・・・・・・無自覚か?」

「ん?」

 食べ物の話題に思った通りの食いつきを見せる志波が、突然不機嫌そうな表情を浮かべた。

「どうかした・・・」

「俺たちは天堂のメイド姿が見たいんだ!!」

「私たちは志波くんの執事姿が見たいのよ!!」


 尋ねようとしたあたしが口を開くより早く、またも突然横波に襲われる。

「・・・なんで議論の争点が、あたしと志波になってんのさ。」

「・・・オレが知るか。」

 思わずため息を吐きながら志波を見ると、そこにはいつも通りのポーカーフェイスな顔。


「天堂頼む!メイド服を着ると言ってくれ!!」

「志波くんは見た目はちょっと怖いけど優しいから、嫌だなんて言わないわよね!?」

「だぁぁ!ウルサイっっ!!」

「・・・諦めろ。」

 一瞬感じた違和感は、祭りの前の喧騒にあっという間にかき消された。




 
 

 
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