Trust Me?

□vol.3 Beside Me?
1ページ/21ページ

1・喉を鳴らす  <瑛視点>


 はね学プリンス 天堂 玲を手なづける最良の方法・・・それは


 餌付け。


 それが判明した以上、後手に回るのは得策ではない。

 かと言って、ただ一方的に与えるだけではフェアじゃない。

 そう。あくまでも求められるのは対等である事。俺があいつに貢ぐなんて冗談じゃない。

 だってこれはゼッタイに、恋愛感情なんて物じゃないんだから。







「バイト?」


 天堂はきょとんとした顔で俺の言葉を繰り返す。

 俺たちのほかには誰もいない、休み時間の屋上。

 話をするにはうってつけなのに、なぜだか落ち着かない俺は、急かすようにうなづく。


「あたしが珊瑚礁で?」

「そうだ。おまえ接客向いてるし。」

「なんでまた。」

「暖かくなると海辺の人出が増えて、店が忙しくなるんだ。」


 これは嘘じゃない。事実なのに、なんで言葉がうわずるんだろう。

 これじゃ怪しまれる。なにか裏があるんじゃないかって見破られるじゃないか。


「でもあたし部活あるし。」

「わかってる。手の空いてるときだけでもいいんだ。他に頼めるヤツいないの、わかるだろ?」

 用意していた言葉を、必死に頭の中から引っ張り出す俺は、敏いコイツの目にはどう映ってるんだろう。

「あたしよりあかりの方がいいんじゃない?」

 逸らされる目線になにか違和感を覚えながらも、それには触れずに首を振る。

「俺が裏に引っ込むときに、フロアにいるのが海野だったら、俺目当ての客が納得しないだろ?」

「・・・確かに佐伯目当ての女性客は多いんだろうけど、その発言はどうかと思うよ。」

「この際そこには突っ込むな。・・・俺の代わりはお前にしか務まらない。」

「・・・でも」


 ここまで言わせてなにが不満なのか、天堂は表情を曇らせて口ごもる。

 でも、以前の俺と天堂だったら、一言の元に切り捨てられただろうから、これはこれで進歩なのかもしれない。


「もちろん余ったケーキは食べ放題。」

「やる!!」


 最終兵器も手に入れたしな?










 新年度。

 俺たちは高校二年生になった。

 特に何が変わったという実感のないまま、だけどやっぱり変化はあって。

 新しいクラスメイトたちに笑顔で挨拶をしながら、心の中では平穏な春休みの終わりを嘆く。


「佐伯くん!一年間ヨロシクね!」

「うん、よろしくね。」

 何が楽しいんだか満面の笑みで寄って来る海野にも、同じ態度で挨拶をして。


「・・・だから。学校であんま話しかけんなって言っただろ?俺が天堂に怒られるんだからな?」

「大丈夫だよ!」

 小声で話しかけた俺へ、不満を爆発させるようなでっかい返事。

 クラスの女子から注がれる、訝しげな眼差し。

 ・・・はぁ。だから言ったんだ。


「よぉあかり!同じクラスだな。」

「あ、ハリー!うん、ヨロシクね?」

「げ。」


 空気も読まずに声をかけてきたヤツを見て、俺は思わず小さく呻く。

 海野は打って変わった笑顔になって、ソイツを歓迎してるようだけど・・・同じクラスなのか。


「お、佐伯もか。よし、俺サマの今年の目標はお前の化けの皮引っぺがすことだ!ザマァミロ!!」

「・・・針谷君もよろしくね。」

「ハリーって呼べ!」

 針谷 幸之進。・・・この上なくメンドクサイヤツ。

 なんで俺に絡んで来るんだよ・・・そっとしといてくれ。



「失礼。ちょっといいかい?」

「ん?おお、氷上か。なんだ?どうした?」


 天の助けか、やたら真面目そうな眼鏡の男子生徒が声をかけてくる。

 腕の腕章・・・風紀委員だ。どうみても校則違反丸出しの針谷に用だろう。

 今のうちにこの場を離れるとするか。



「一週間後の新入生歓迎会の事なんだが。」

「おお、オレサマのライブの事な。」

「その言い方では誤解を招く恐れがあるな。新入生歓迎会の演目である、君のバンドの演奏の事だ。」


 俺様針谷と堅物氷上の会話に、辺りの興味が集中する。


 よし、チャンスだ。



 俺はさり気なく後ずさりして、話の輪からの脱出を図った。






新入生歓迎会☆
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ