ときめきバグりある!1st trip
□8・そういや昔のヒーローは結構おじさんだった
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わたしがゴミを捨てに行ってる間に、瑛は登校の準備のため珊瑚礁に戻ってしまっていた。
残念ながら入室を認められていない身としては、一人寂しく外で待つしかない。
わたしはその場に座り込むと、灯台を見上げながら遊くんとのやり取りを思い返した。
・・・・・・・・・
「りあるおねえちゃんの使命は、ズバリ攻略キャラ8人の鬼畜化の阻止!」
「いやズバリとか言われても困るんだけど」
○尾くん?とばかりに、きりりと表情を引き締める遊くんに思わずぼやいたのは、遊くんのその表情の中に隠しきれないワクワク感を感じてしまったからだ。
使命とかミッションとか、ヒーローっぽい単語好きだよね、小学生男子。
「具体的には全員を攻略するってことだね。」
「え、いやそれ無理だから!どんな悪女プレイさ!つかそれじゃわたしが鬼畜キャラっぽいですけど!!」
下された激難度の使命にあわてて反論すると、遊くんは首を傾げながらどこからかときめきパネルを取り出す。
そこに描かれたマークは見事に全員普通の下……どうでもいいヤツって位置だ。
「でも、りあるおねえちゃんは攻略情報全部知ってるわけだから。裏業使えると思えば大丈夫でしょ?」
「この場合こなみまんレベルの裏技じゃないとたち打ち出来ないよ……」
「ゲームの設定まんまで考えると不可能だけど、そもそもりあるおねえちゃん高校生じゃないんだからパラメータとか関係ないし。パラ条件なしってなると難易度低くない?」
「……高校生じゃないってことは、みんなとの接点がないってことなんだけど。
それにパラメータ関係ないってことは、逆にわたしがわたしのまま全員に好かれなきゃならないってことでその方が不可能だよね。」
数値化された自分のパラメータを直視する勇気はないけど、パラメータが上げられないってなるとホントにキャラと絡んで好感度を上げなきゃいけないってことだ。
それのどこが難易度低い。試験で学年首位キープしてれば勝手に告白してくださる方もいると言うのに。
「攻略って言っても、別に告白エンド迎えろとは言わないよ。キャラクターが抱えてる壁を主人公との関わりで越えていくって言うのが、ときメモのポイントな訳だから。」
「……ってことはつまり、ときめいてようがなかろうが、ときめきイベントさえ起こせばいいって事?」
なんとなく低くなった難易度に、弾かれるように顔を上げて遊くんを見ると、遊くんは満足そうに頷いた。
「そう!だから、りあるおねえちゃんが使える真の裏技は、ときめき度を上げなくてもイベントを起こせるってことなんだよ!」
「あ……なんかちょっと出来そうな気がしてきた!」
「でしょ!?……もちろん空気とか流れとか読まずに強引にもってきすぎると傷心度上がって鬼畜化だけど。」
後から思えば、もしかしてわざと最初に本当の条件より難しいことを言って、できる気にさせたんじゃないかと、勘ぐりたくなるほどさりげなく
遊くんが早口で一気に言った言葉に頭が反応する前に、わたしはようやく見えた希望に望みをかける。
「とりあえずは深く考えずに、みんなと知り合って仲良くすることから始めるよ!」
「うん!ありがとうりあるおねえちゃん!」
さっきまでとは別人のように前向きに笑って見せたわたしに、遊くんは少しだけ照れたように笑ってくれた。
……うん。やるしかない。ときメモの……大好きなこのゲームの世界を守るためには、わたしがやるしかないんだ!
攻略キャラクターの鬼畜化とか、思い出のアルバムのモザイク化とか、なんか結構ニーズがありそうではあるけど
それもこれも根底にあるときメモの世界観がみんなに愛されているからだって、そう信じて!
「りあるおねえちゃん」
どこか強張ったような声で呼ばれて遊くんを見ると、うつむいて表情を隠した遊くんがわたしの服の裾をぎゅうっと掴んでいた。
「……どうしたの?」
「あのね……さっきの、志波さんの時みたいに」
丁寧に言葉を選んでゆっくりと絞り出される遊くんの声に、早まる鼓動を抑えながら集中する。
そうしないと聞き逃してしまいそうな、弱々しく震える声。
「……志波くんがフリーズした時?」
「うん……あれは、ホントに危険なことなんだ。何度も繰り返せば、きっとこの世界が壊れちゃうと思う。」
「うん……わかってる。」
さっきは何でもないように言ってた遊くんだけど、あれは襲われた直後のわたしを気遣ってくれたんだと思う。
フリーズした世界が再び動き出すなんて保障はないんだ。もしかしたら、ナビゲーターである遊くんひとりを残したまま、すっと
「大丈夫!目いっぱい気を付けるよ!」
わたしは遊くんを安心させるように力強く宣言して、かすかに震えるその手に自分の手のひらを重ねる。
だから心配しないで。不安にならないで。一人で苦しまないで欲しい。
「うん……ありがとう。でも」
祈るように力を込めると、ようやく遊くんが顔を上げた。
少し青ざめた顔に、思いがけず力強い光を宿す瞳。
「りあるおねえちゃんが危ない目にあいそうになったら……迷わずフリーズさせて欲しいんだ。」
「!遊くん……」
「この世界は……俺たちは、所詮データなんだから。りあるおねえちゃんを苦しめてまで守る必要はないんだよ。」
「そんなこと……!」
「約束して。何より自分の安全を優先するって。」
「……遊くん」
「大丈夫。りあるおねえちゃんはデータじゃないから、この世界が壊れても消えたりしないで元の世界に戻れるよ。」
その言葉は
その小さな手は
どうしようもなく震えているのに
わたしを守ろうとしてくれる遊くんは
「……わたしが傷つかないって約束する。」
「うん。絶対だよ。」
頷いたわたしに、本当にホッとした顔をしてくれて
「それから、絶対にこの世界を壊したりしないって約束する!」
「っ!?」
わたしに勢いよく抱きしめられて言葉を失った。
「だから、そんな平気なフリなんかしないでいいから……!」
きっと登場時の大きさの、わたしの胸までしかないその華奢な身体。
この小さな身体で全てを受け止めるのに、どれほど辛い思いをしたんだろう。
「りあるおねえちゃん……」
気付けばぼろぼろ涙を流しているのはわたしだけで、遊くんは困ったような笑顔を浮かべて、そんなわたしの背中をぽんぽんと優しく撫でてくれていて
「ごべんね……」
「うん。」
完全に詰まった鼻で謝ると、ふわっと柔らかい笑みが返ってきた。
「ありがとう。」