ときめきバグりある!1st trip
□4・近所に住んでたって会うの久しぶりだってこと、結構ざら。
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「って言っても実は家とかないんだよね〜多分。」
赤くなったのを隠すようにさっさと歩き出す志波くんに、とりあえずぶっちゃけてみる。
「……はあ?多分ってなんだ?」
「う〜ん……説明しづらいんだけどね。
帰り方が分からないって言うか。あ、迷子って訳じゃなくてね?」
「じゃあ……家出か?」
「いやちがくて。そもそも独り暮らしだし。」
説明して欲しいのはこっちだったりするわけだけど。
「なんていうか、予測不可能な事態でね。だから使える携帯とかお金とか持ってなくて……
さっきのジュース代もだけど、このライブチケット代も払ってないんだよね。
あ、踏み倒したりはしないからね?」
「いや、俺はいい。……宿無し文無しか。仕事は?」
志波くんの問いに首を横に振る。
でもその言い方だと、なんかどうしようもないダメ人間みたいだよね……。
でも実際にこうしてゲームキャラが目の前にいるんだ。現実だけど現実じゃない。
だから……
「うん、多分大丈夫!なんとかなると思うし気にしないでいいよ。」
「………。」
「このライブって志波くんも来る?だったらそのときにジュース代返すよ。」
1リッチくらいならなんとかなるだろう。
できればもう2リッチもなんとかして、ハリーのライブも見てみたいけど、それはチケット返せば大丈夫だよね。
それに次の瞬間には元の世界に戻って……認めたくはないけど幻覚から醒めて……るかもしれないし。
「……まあとりあえずは現実として受け止めて頑張るよ。」
「………。」
「こんな時間に引き止めてごめんね!いろいろアリガトウ!」
名残惜しいけど志波くんとはお別れです。
ああ……かっこいいなシバカツ。
「待て。」
後ろ髪ひかれる思いで背を向けたのに、志波くんはわたしの手を掴んでひきとめる。
「ん?」
「放っとけるか。」
ため息と共にそうつぶやいた志波くんは、わたしの手をひいて歩き出す。
「え、と。志波くん?」
「……俺んち泊めるってワケにはいかねぇし、どっか泊まれる程金の持ち合わせはねぇ。」
「そんなの別にいいのに。朝まで適当に時間潰すよ。」
「よくねぇだろ。女って自覚あるか?……この近くに知り合いが住んでる。大学生だから俺よりは金持ってるはずだ。」
「え」
志波くんの大学生の知り合いって言えば……
「おお?どうした勝己。こんな時間に。」
「……勝己って呼ぶな。」
「なんだなんだ水臭い!昔みたく元春兄ちゃんって呼んでいいんだぞ?」
「その口閉じろ……真咲。」
やっぱり真咲先輩だぁ!!
わたしはにやける口元を必死で押さえて、やたらとでっかい2人のやりとりを見つめる。
「……笑うなりある。」
「わ、笑ってないよ。」
志波くんがじろりと横目で睨んできたから、あわてて口元を隠してそっぽを向いた。
ちなみにここに来る途中で名前は教えたんだけど、実際呼ばれるとEVSとはまた違う感動があるなぁ……。
しかもゲームでは志波って名前呼んでくれないんだよね。いやぁ幸せ……。
「おお!?なんだよ勝己、女連れか!」
勝己としか呼ぶ気の無い真咲先輩が、志波くんの影になってたわたしを見つけて目を丸くする。
ああ……この表情、正に真咲ってカンジ!
ってそんなことに感心してる場合じゃなかった。
「夜分にすいません。」
しかもお金借りに来てすいません。
わたしは申し訳ない気持ちでぺこりと頭を下げた。
「いやいや構わねぇって。まあとにかく入れや。」
「……にやにやするな、真咲。」
「えー?別にしてねーって勝己クン」
「………。」
「お邪魔します!(ってでも、アレ……?)」
真咲の部屋ってゲームに出てきたっけな……?確か出てこないよね。
なのに設定は決まってるんだろうか。
わたしはちゃんとした部屋の内部を見て首を傾げる。
真咲の家は外観すら決まってないはずだけど……。
「キョロキョロして、なんか珍しいものでもあるか?」
「あ、いいえ!ごめんなさい!」
「おう、構わんぞ。しかし素直に謝るのはいいことだ。二重マル!」
はうわ!!
二重マル……二重マルを頂いてしまいましたぁ!!
「真咲、金貸してくれ。」
はうう!!
志波くんてば、なんて直球!
真咲先輩の二重マルに感動していたわたしを無視して、志波くんがあまりにストレートな言葉を放つ。
「はぁ……たまに来たかと思えばそういうことかよ。で、何に使うんだ?」
がっくりと肩を落とす真咲先輩に、志波くんはむすっとして眉をひそめた。
あわわ、これってマズイよね?真咲先輩完全に誤解してる。
「違うんです!志波くんはわたしのために……」
「ホテル代。」
………。
フォローしようとしたわたしをさえぎる、志波くんの誤解して下さいと言わんばかりの一言。
「勝己……」
「いや、先輩!そうじゃなくて……」
「おまえら2人、そこに座れ!!」
それからしばらく、口を挟むことは許されない真咲先輩の説教タイムが続いたのでした。