ときめきバグりある!1st trip

□2・携帯電話のボタンが大きいとそんなに指でっかくないよと間違ったツッコミを入れたくなる
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「ちょっとお尋ねしますが。」

 呼びとめたわたしに怪訝そうな顔を向けたのは、赤い髪をツンツンに立たせた、高校生らしい制服の男の子。
 ……うわ。ちょっと目付き悪いよ。聞く人間違えたかな…。でも呼び止めといて何でもないデスの方が感じ悪いよね?
 それに一応社会人として、年下の高校生にビビルってどうなのよ。

「あの、ちょっと道を聞きたいんですけど。」

 わたしは思いきってその子の側に駆け寄ると、わたしより少し高いくらいのその子の顔を見上げて驚いた。

 ……かっこいい。

 さっきは目付き悪いだけに見えたけど、つりあがってる目じりの割りに大きな瞳は猫っぽくて可愛いかも。

「……なに?オマエ迷子?」

 面白がるように目を細めて、小さくニヤリと笑ったその顔に、思わず心臓が跳ねた。

「や、迷子って年じゃないよ失礼な!」

 聞き逃せない物言いに思わず反論すると、かっこいい少年は首を傾げるようにして、値踏みするようにわたしの格好をしげしげと見た。

 ……ぎゃぁ!

 わたしは心の中で悲鳴をあげる。
 普段の通勤であれば、スーツとはいかないまでも、いかにもOL!社会人!大人のオンナ!って格好なんだけど。
 いかんせん今は詰め込みまくりの過密スケジュール消化中の身。更にいえばテストプレイという名のゲーム生活。
 こんなかっこいい男の子にじっくり見られて大丈夫なほど、キレイな格好はしてないのが現状。

「……でも迷子なんだろ?そんな年じゃなくても。」
「う。そうでした……。」

 呆れた様に指摘されて、わたしは思わずうなだれた。

「いやいやいや、違うって!迷子じゃなくて、家に帰ろうと思ったのに、ここがどこだか思い出せないだけだから!迷ってないから!」
「目的地に着けないなら迷ってるっていうんじゃねえの?」
「いちいちうるさいなぁ!いいからここがどこだか教えなさいよ!」

 痛いところを的確に突かれて、とうとうわたしは逆ギレた。


「……それが人に物を頼む態度かよ?」

 すう、と音を立てて、目の前の少年の瞳が鋭くなった。
 途端に空気がひやりと温度を下げたような気がして、わたしは思わず身体を縮める。

「や、ごめん……つい。」
「そういや明後日、俺サマのライブがあるんだよなー。」
「ライブ?」

 少年の唐突な言葉に目を瞬かせると、イタズラっぽく笑った瞳がわたしを映していた。
 怒らせちゃったかと思ったけど、大丈夫みたいだな。

「チケットお買い上げの迷子の小猫ちゃんには、もれなくハリー様のナビゲーションが付いてくんだけどなー。」
「ってアンタ、それって道教えて欲しいならチケット買えって事じゃない!」

 ……大丈夫じゃなかった。
 ふふん、というような笑いを浮かべた少年は、さっきから言葉のあちこちに、チラチラと俺サマ気質がのぞいてる。
 そのやたら偉そうな態度が、妙に様になってるのがなんとなくムカツク。







「……結構です。」
「なんだよ人がせっかく親切に言ってやってるっつーのに。」
「交換条件出すのは親切って言わない!いいよもう!他の人に聞くから……」

 そう言ってわたしは辺りを見回す。
 運の悪い事に、ずっと先まで伸びている道には、他の人の姿は見えない。
 いやいや、でも曲がり角からヒョイってこともあるだろうし、あんな理不尽な要求に負けちゃいけないわ。

「誰もいないみたいだな?」
「そのうち誰か来るに決まってるるでしょ!」

 ニヤニヤ笑いを強めた少年に反論しながら、今来た道を振り返る。
 延々と続く住宅街。

「……住宅街?」

 不自然さを覚えたわたしは、眉を寄せてつぶやく。

 会社はもちろんオフィス街にある。わたしは会社から歩いてきたんだよね?
 そりゃあ上司と携帯で話しながらだったけど、足はいつものように自宅マンションへと向かってたはずだ。
 ……わたし、いつの間にオフィス街を抜けたんだっけ?電話してる最中?
 いや、違う。わたしの自宅マンションは会社の独身寮。ずっと続くオフィス街を抜けて、ほんの2・3分のところにある。

 こんな風に延々と続く住宅街なんて、会社からの徒歩圏内にあったっけ?





 
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