ときめきバグりある!1st trip
□12・みんな子供の心を隠して大人になっていく
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突撃!羽ヶ崎学園!
しかしその計画は、途中でばったり会った不機嫌な顔によって、断念せざるを得なくなった。残念。
「なにやってんだよ、こんなとこで。」
眉間にくっきり刻まれた皺が、わたしの企みを見抜いているようで思わず逃げたい衝動に駆られる。
だけどここまで瑛が油断して本性を曝け出してるということは、ここを切り抜けてもまだ羽ヶ崎学園までは距離があるということだろう。
冷静にそう判断してわたしは、これ以上の状況悪化を裂けるため、カワイコぶった仕草を作る。
「そりゃもちろん、瑛のお迎えに?」
「嘘吐け。”?”ってなんだよ。」
「いやいや別に疚しい気持ちなんてこれっぽっちも!女子高生気分に戻って学園闊歩で活惚れ活惚れとかそんなつもり一ミリもないから!」
「いや、活惚れってなんだよ?」
「ただ、瑛のメールと朝ご飯が嬉しかったから、早く瑛にありがとうって言いたかったの。」
そこから潜入衝動に駆られたことはあえて黙して、わたしはへらりと照れ笑いを浮かべた。
「……そんなの、別に帰ってからでいいだろ。」
ぷいと背けられた瑛のほっぺが僅かに赤い。
照れてる……照れ瑛!
「ごめんね?」
「別に謝らなくてもいいけど」
なんだこの愛苦しい生き物は!?
思わず悶え苦しんでいると
「お、佐伯?」
不意に背後から声をかけられて、瑛がぎくりとして振り返る。
慌てて貼り付けたせいでぎこちない優等生の表情に、少し胸が痛い。
「ちょーど良かった!おまえ、今日のライブ……ってりある?」
「なんだ針谷か……」
「あれ、ハリー?」
底抜けに明るく響く声と、安堵したような瑛の呟きと、驚いたわたしの声が重なって、みんなで顔を見合わせた。
「なんだよ、佐伯の知り合いだったのか。道理で変なヤツだと思った。」
「それどういう意味かな?僕も針谷くんと彼女が知り合いだってことに、同じ感想を持ったところなんだけど。」
面白がるような響きで評したハリーに、ウソくさい笑顔を湛えた瑛がさっくり反撃する。
「そっちこそどういう意味だよ!?オレ様が言いたいのはまさにそれだ、その優等生ぶった態度!それがりあると類友だって言ってんだ!」
「りあると一緒にされたくない。」
「ひどっ!間髪いれずに断言とか傷つく!それになんか全部わたしにはね返ってきてるんだけど!?」
「元凶はりあるだからな。」
ハリーの言葉に瑛もうんうんと頷く。なんだ仲良しか!?
わたしはむっとして反撃に転ずる。
「いやいやなんでそうなるよ?っていうか類友は間違いだし!わたしは別にあんな不自然ないい人ぶりっこしてなんかないもん!」
「それ、誰のことかなぁ?りあるさん。」
「痛い痛い痛い!視界の外で足踏むな、姑息なヤツめ!」
「ああごめんね?僕、足が長くて。」
「嫌味だなムカツク!」
心から爽やかな笑顔を浮かべてわたしを見下ろす瑛……やっぱ本性は真っ黒だ。
「だからそういうガキみてーなとこが、類友だって言ったんだけどな。」
「ハリーが言うな!」
「針谷には言われたくない!」
ひとり大人ぶって肩をすくめるハリーに、二人して間髪入れずに突っ込んだところで、ようやくわたしは一息ついて改めてハリーに向き直った。
「ハリー、こないだは急に逃げたりしてゴメン。」
ぺこりと頭を下げると、ハリーはニヤリと笑みを浮かべた。
「細かいことは気にすんなって。それにチケット代踏み倒すつもりじゃねぇってのは志波から聞いたしな。」
「え、志波くん?」
「おお、今朝な。えらく思い詰めた顔して『りあるの居場所知ってるか』って聞かれてよ。知らねぇからフツーにそう言っといたけど。」
「………。」
そういえば、わたしが志波くんのことを知ってたの、ハリーから聞いたってことになってるんだっけ。
バレる前にちゃんと話しておかないと、ややこしくなりそうだな。
ってそんなすぐにうまい口実とか出てこないし、そもそも今は自分の保身のことより、志波くんがわたしを探す理由の方が問題だ。
一歩引いて見てた真咲ですら、あれだけ気にしてたんだもんな。そりゃ根のマジメな志波くんが気にしないでいられるはずもない。
「ついでに余ったチケット売りつけようとしたのに、黙ってそのまま消えてっちまって。」
「……そっか。教えてくれてありがと。」
志波くんにも近いうちに会いに行こう。ちゃんと話しとかないと、志波くんだって気が重いままだろうし。
「あ、そうだ。チケット代払うね。」
「……ライブ行くのかよ?」
気を取り直してカバンを探るわたしに、瑛の不機嫌極まりない声。
「え?うん、行くよ。」
「りあるはオレ様に出会った瞬間から、オレ様のロック魂のトリコなんだよ、なぁ?」
「え?うん、まぁ……それでもいいけど。」
「……ふーん。ま、どうでもいいけど。」
瑛の表情が気にかかって、ハリーのよくわからない言いがかりはスルーした。だけど瑛はますます不機嫌そうな色を強めて、ぷいっと顔を背ける。
「なに?佐伯オマエ拗ねてんの?」
「なっ!別に拗ねてなんか!」
「なんだよしょーがねぇなあ。だったら特別にこのとっておきのチケットを2リッチでくれてやろう!」
「いらない。なにがとっておきだよ。余ったって言ってただろ!」
「ああ……仲間外れが嫌だったんだね?」
「違う!……ガキかよ、俺は。」
瑛の不機嫌にようやく理由がわかったと思ったのに、瑛は思いっきり不満そうに唇を尖らせた。
その仕草がガキっぽい……そして萌え!!とは言わない方がいいくらいのことはサスガにわかるので、お口にチャック。
「ああ、もうこんな時間だよ……。じゃ、俺、急ぐから!」
「あ、瑛!……ごめん、わたしも行かなきゃ。」
言うなり駆けだしてった瑛の本気のスピードに、これはのんびりしてられないと判断したわたしはハリーにそう断って背を向ける。
「あ、りある!ライブの後バック入れるようにしといてやるから、キッチリ顔出せよ!」
「うん、ありがとう!」
ハリーの声を背中で聞いて、そういやまだチケット代払ってなかったことを思い出す。ごめんねハリー、後で絶対払うから!
そう心の中で誓って、小さくなっていく瑛の背中を全力で追いかけた。