ときめきバグりある!1st trip
□9・攻撃は最大の防御ってほど攻撃力ない奴はとにかくやっぱ守っとけ!
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「おかえり瑛!」
「ただいま……ってまだいたのかよ。」
疲れた顔して学校から帰って来た瑛は、カウンターのスツールをぐりんと回して振り返ったわたしを見て眉をひそめた。
「コラ!おまえはまたそんな口の聞き方を!」
「あ、マスターいいんです。これからお世話になる身なわけですし。」
「………はぁ?お世話になるってなに」
「これから躾けていきますから」
「よろしくお願いします、りあるさん」
「ってお願いするのかよ!つか躾けるってどういう意味!」
状況を飲みこめずあたふたしていた瑛は、なんて可愛いんだ……という二人分の生暖かい視線を浴びてまさか、と口元を引きつらせた。
「まさかりある、珊瑚礁で働くとか言うんじゃ」
「ピンポンです。しかも住み込み賄い付き!」
うきうきと人差し指を立てたわたしに、瑛はあからさまに怪訝な顔をする。
だいぶ嫌われてるようで悲しい限りだけど、本音で接してもらえてなんだか嬉しいぞ。
「はぁ!?住み込みってどこに……」
「そりゃあもちろん瑛の部屋」
「はぁぁ!?何考えてんだよ!んなわけいかないだろ!」
「って言うのは冗談だけど?」
「……おまえな」
てへっと首を傾げてみせると、瑛は面白いほど真っ赤になって拳を握った。愛い奴め。
「落ち着きなさい、瑛。まさかこんな魅力的なお嬢さんとおまえを一つ屋根の下に置くわけないだろう。」
「魅力的って誰が……って、じゃあまさか、じいちゃんちに?」
「いやいや、すぐそこにちょうどいいところがあるでしょう。」
「ちょうどいいとこって……浜辺にテント張って、とか?」
「それじゃ危険だしー色々。灯台だよ。」
「灯台って……十分危険だろ?」
眉をひそめる瑛。
……心配してくれてるのかな。
まあ確かに、灯台は人が住むように作られてるわけじゃないとは思うけど。
ゲーム内でそこまで設定が決まってるわけじゃないけど、灯台が使われていた頃は当直の灯台守みたいな仕事の人もいたんじゃないだろうか。
なにしろ灯台が使われるのって夜だし。
「わたしは反対なんだが、りあるさんが灯台でいいって仰るものだからね。」
「違いますよマスター、むしろ灯台『が』いいと!
仮眠生活には慣れてるし、寝袋一つあれば十分ストレス下げられます。」
なんとか説得して了解してもらったもののまだ心配そうなマスターに、わたしは努めて能天気に笑ってみせる。
さしあたっては雨風凌げればそれでいい。ここの世界での身分証明が出来ないわたしに部屋は借りられないけど、状況は変わるだろうから。
「……なんでそこまでして、うちに来るんだよ?」
瑛の声に顔を上げた。
今までのように怪しんでいるというより、本当にわからないという表情。そりゃあそうだろう。
『相談役(アドバイザー)』として事情を知っていたマスターとは違い、瑛にとってわたしは本当に今朝が初対面で、瑛とも珊瑚礁ともつながりのない人間。
本当の理由は言えなくても誤魔化すのはきっと簡単だ。
適当な理由を付ければマスターがフォローしてくれるだろう
……でも
「護りたいんだ」
瑛がかすかに目を見開いた。
「護る……?」
「うん。……珊瑚礁を護りたい。」
嘘はつきたくない。
瑛に……本当は誰にも。
もうついてしまった嘘もあるし、伝えられないことがある以上、これから幾重にも重ねなければならない嘘も。だけど
「瑛がいっぱい頑張ってるの、知ってるから。」
「……じいちゃんがあんたになんて言ったか知らないけど、俺は別に……」
「マスターは瑛の気持ちを大切にしたいだけだよ。」
「…………。」
探るような瞳。
わたしは逸らさずそれを受け止める。
「護れないかもしれないし、わたしのやるべきことが本当は何かなんてわからないけど、出来ることが目の前にあるなら精一杯やっておきたい。」
そして護りたい
珊瑚礁を、この世界を、みんなを、瑛を
「……なんて、自己満足だけどね。」
眉を下げて笑うと、ようやく瑛の表情が和らいだ。