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□はば学冬の陣!
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 休日の朝。静寂を破って鳴り響いた携帯メールの着信音。

 半分眠ったまま枕もとの携帯を手繰り寄せ、ぼんやり光るディスプレイを眺めた。



『from :桜井 琉夏

 title:オハヨ

        

 本文:外を見ろ!』




「外……?」

 ベッドの上に気だるい身体を起こし、よくわからない内容のメールに首を傾げる。

 カーテンの閉まった窓に目をやると、隙間から洩れる光がやけに仄白い。

 訝しく思いながらベッドを出て、一気に身体を包んだ冷気に身を震わせた。



 カーテンを引き開けると、目に飛び込んできたのは出窓の桟に積もった白。

「雪だ……っ!?」

 思わず声に出した時、飛んできたなにかがぼすっと音をたてて、窓ガラスにぶつかった。

 その衝撃で桟に積もった雪がぱらぱらと窓の下に落ちる。

 驚いて外の人影に目を凝らした私の手の中で、再びメールの着信音が響いた。



『from :桜井 琥一

 title:出陣だ

     

 本文:さっさと着替えて降りてこい』




「ルカ、コウ?」

 目を丸くした私を見上げて、外に立ってた二人がニヤリと笑った。















はば学冬の陣!

GS3

















 冬の朝特有の、清々しいまでに冷え切った空気を胸一杯に吸い込むと

 微かな痛みを伴ってなにか洗い流されて行くような、そんな爽快感。

 朝の陽光を反射してきらきら光るグラウンド。眩しさに思わず目を瞑る。



「寝起きにゃツライか?」

 意地の悪い笑みを含んだコウの声。

「お休みなんだから、早起きしなくていいの!」

 唇を尖らせて言い返す私の横を、金色の風が吹きぬける。

「積もってる積もってる♪俺、いっちば〜ん!」

 さっきまで寒さで身を縮めていたルカが、まだ何の跡も付いていないグラウンドの雪をめざして駆け抜けたんだ。

「ルカ、ズルイ!」

「……ガキか。おまえら。」

 あわててルカを追って走り出す私の背に、呆れたようなコウの声が届いたけど

 その声もやっぱりどこか、楽しげに響いてた。




 すっぽりと地面を覆い隠して積もった雪。

 そりゃ、浮かれるのも仕方ないってもんでしょう!



 さくさくとした細雪。

 足を踏み出す度に踏み固められた雪が、

 まるで抗議の声をあげてるみたいにもきゅっとくすぐったい音を立てる。


「メモ子、おいで?」

 ひとしきり足跡をつけて満足したのか、ほんの少し佇んでたルカが、私を振り返って手を差し伸べた。

 校舎の間から降り注ぐ太陽の光にきらきらと輝く、ルカのとろけるような甘い微笑。

 思わず高鳴った心臓の音に気を取られたのか、うっかりよろけてしまった私の身体を




「……気ぃつけろ、ドジ。」

 腕一本で支えてくれたコウの、少し掠れた低い声が耳をくすぐった。







「遅い!」

「うわぁっ!?」

 突然響き渡った鋭い声。反射的に身体をすくませたけど、今の声は……


「聖司先輩?」

 声のした方向を見ると、そこには不機嫌丸出しの顔をした聖司先輩。


「やあ、メモ子さんも呼び出されたのか。」

「玉緒先輩まで……おはようございます!」

 聖司先輩の横にいた玉緒先輩は、困ったような笑顔で私の挨拶に応えてくれた。



「先輩たちまで呼び出したの?」

 意外に思って尋ねると、ルカとコウは悪びれる様子もなく頷く。

「そ。頭数は多い方がいいからね。」

「ま、頼りにゃしてねぇが。数合わせだな。」

 その発言は失礼な気がするんだけど…

 ハラハラする私をよそに、玉緒先輩は大人めいた仕草で肩をすくめる。

「やれやれ……人を呼び出しておいて、随分な言い草だな。」

「これ以上バカに付き合う時間はない。さっさと用件を言え。」

 聖司先輩も、眉間にくっきりとした皺を刻みながらもあっさり流して話を進めようとしたものの……


「コウ、セイちゃんにバカって言われてるよ?」

「テメェだ、バカ。」

「バカって言う方がバカなんだぞ?……ってことは。」


「オイ、なんでニ人して俺を見……誰がバカだ、誰が!」

「……みんな、子供じゃないんだから。」

 話をまぜっかえしたルカの言葉に機嫌を損ねて、玉緒先輩に諌められていた。







「お、先客か?」

「え?でも今日休み……って、うわ、ホントだ。」

「嵐さん、ニーナ!」

 近付いてきた声に振り返ると、クラブハウスの方から歩いてきた二人の姿。

 ジャージ姿なところを見ると自主練中だろうか。


「おお、ランニングしてたら偶然新名に会って。」

 尋ねてみると、嵐さんが首にかけたタオルで汗を拭いながら答えてくれる。

「そうそう。

 んで、こんな雪の日に会っちゃったからには、もうマジ勝負するっきゃないでしょ〜ってなってさ!」

「マジ勝負?」

 付足されたニーナの説明に首を傾げると、ストレッチを始めた嵐さんが不敵な笑みを浮かべた。

「雪の日のマジ勝負っつったら、雪合戦に決まってんだろ。」

「……なるほど。」


「お、だったら俺たちと一緒だ。まざる?」

 そう言われてみればそうかも、と納得していると、ルカが話に入ってきた。

「え、ルカも雪合戦しに来たの?」

「今更なに言ってんだ?メールに書いただろ。」

「メールって……『出陣』ってそういう意味だったんだ。」

 そりゃわかんないよコウ……。

 楽しそうなみんなに水をさすのは悪いので、心の中だけで呟いた。



「いい遊び相手ができてよかったじゃないか。」

 思わず脱力してしまった私をよそに、これ幸いとばかりに帰り支度を始める聖司先輩。

「ああ、後は君たちで楽しんでくれ。それじゃ僕たちは失礼しようか。」

「え、ええと、玉緒先輩?」

「ちょ、玉緒さん!なにさりげなく メモ子ちゃん連れてこーとかしてんスか!?」

 私の手を引いて立ち去ろうとしていた玉緒先輩は、ニーナの制止の言葉に眉をひそめた。




「この場に彼女を残して、君たちの『マジ勝負』なんかに巻き込まれたら危険すぎるだろ。」

「『マジ勝負』はおまえら体力バカだけでやれ。付き合いきれるか。」

「え、ええと……」



 確かにこのメンバーで雪合戦なんてしたら……想像しただけでも恐ろしいけど。



「でもちょっと……参加してみたいな。」

「はぁ!?」

「君、本気で言ってるのか?」

「は、はい……雪合戦だから、怪我とかはしないと思うし……。」

「つか先輩、そいつも結構『体力バカ』なんスけど。」


「っ!?そ、それは確かに……」

「クッ……失言だ。悪い……。」

「いえ……。気にしないで下さい。」


 『体力バカ』は誰も否定してくれないんだ……。







「ま、そういうことだから。帰るならお二人でどーぞ?」

 満足そうに目を細めたルカが、玉緒先輩の元から私を引き寄せる。

 バツが悪そうな顔でお互いの顔を見合わせる先輩たち。

 私の心配をしてくれたのに、なんだか申し訳ないなぁ。

 それに先輩たちが帰っちゃうの、やっぱり寂しいし。

「せっかくだし、先輩たちも一緒に遊びませんか?

 ええと……マジ勝負はみんなにまかせて、自分のペースで!」

 あわててとりなすように先輩たちを誘ってみると



「……くだらない。さっさと終わらせて帰るぞ。」

 機嫌を直してくれたらしい聖司先輩が、優雅な仕草で髪をかきあげながらみんなの輪に戻って行く。

「……結局こうなるのか。ハァ……」

 大きなため息を吐いた玉緒先輩がその後に続いて。

 とりあえず、丸く収まったかな?


















幼馴染と一緒♪




柔道部と一緒♪




先輩たちと一緒♪





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