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□『サイト開設3周年七夕SS』 3編
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七夕会話・3年目
「あ」
可愛い彼女の手料理を腹に納め、満たされた気分でソファに寝そべってたオレは、不意に声を上げたメモ子の視線を追って首を傾げた。
「どした?」
「雨……降ってきちゃった。」
昼間の暑さを受けて夕方から曇り出した空。
それがついにパタパタと音をたてて雨粒を落とし始めてた。
「ああ……せやけど、この感じやったらすぐ止むと思うで?」
寄せられた眉と尖った唇に、もうこのまま唇を奪ってやろうかってな衝動を押し殺し、その不満げな表情の意味を探る。
「そうかもだけど……星が見えないもん。」
小さな顎がついと動き、大きな瞳が窓の外を仰ぐ。空を見上げるその仕草に、露になった白い首筋にドキリとした。
もう随分長い間一緒におって、ずっと見つめ続けてるっちゅーのに、飽きることなく沸き上がるオレのときめき。
ああもう、ホンマに。どんだけ言葉と態度で伝えたかて、次々と溢れ出す想いは尽きることがなくて。
「別に構へんやん。星よりずっとキレイなメモ子が、ここにおるんやし。」
純粋な想いも不純な気持ちも、全部込めてメモ子を抱きしめた。
「……違う。」
途端に響いた精一杯の重低音。
「まどか、それ違う。」
窓ガラスに映ったむっつりとしたメモ子の顔。
しまった。
印象サイアクや。
「スマン。」
それでもオレから離れることはせず、むしろ八つ当たりのように思いっきり重みをかけて押し付けてくる身体を支えて。
うなだれたフリして視線を落とすと、胸の辺りで見上げてるメモ子の瞳にオレが映った。
「今日が何の日か思い出したら、許してあげる。」
「……ナルホド。」
考えるまでもなく、頭に浮かんだ答え。優しい彼女のヒントは、本気で機嫌を損ねたわけやないことも教えてくれる。
「今日は7月7日……七夕です。」
メモ子が空模様を気にしてたのも道理で、そんな大人になっても無邪気なところがもうこのまま押し倒したろうかっちゅーくらい可愛い。
「今年は会えないのかな、2人……。」
物憂げな瞳がふるりと揺れる。
そりゃいくらなんでもこの年齢になって、そんなおとぎ話を本気で信じてるってわけやないけど。
せやけど、好きなヤツと一緒におれる幸せをこれでもかっちゅーくらい思い知ってる身としては、年に一度の星空の逢瀬を応援したい気分になるのも人情やん?
第一、オレの可愛いメモ子が、いくら可愛いからってこんな寂しそうな顔してんのを、冷たくあしらうなんてことができるわけないし!
「……そういう優しいトコ、めっちゃ好きやで?メモ子。」
「もう、まどかってば。」
一瞬で桃色に染まる頬に口付けて、窓の外に広がる空に目を向ける。
「せやけど、よく考えてみ?」
「え?」
オレと同じように空を見たメモ子が、腕の中で首を傾げるのを視界の隅で捉えて。
微かに軋んだ音を立てて開けた窓から、湿気を含んだ夏の風が吹いてきた。
「天の川は雲の上やで?」
「……あ!」
「心配せんでも、ちゃぁんと2人は会えてます。」
「そう言えばそうだね!」
目をまん丸にしたかと思たら、次の瞬間には笑顔がはじけて。
子どもみたいに無邪気なメモ子がちょっと憎らしくなって、窓を閉めながら言うてみる。
「いやむしろ、雲で隠さなアカンようなことしてるんちゃう?」
「……まどか、ヤラシイ。」
「あれー?なに想像してんのメモ子ちゃん?」
リンゴみたいに真っ赤なほっぺをからかうと、小さな手がカーテンに伸びて。
「……まどかと同じこと。」
外から隠すためにカーテンを閉めながら、悪戯っぽく笑ったメモ子に、今度はオレの頬が真っ赤に染まった。
雨を嘆くしかできない子どものように無邪気でおれへんオレらは、ヘ理屈をこねて横穴を掘る。
ヨコシマな気持ちで純愛を否定しながらも、永遠に続く愛に焦がれて。
「……参りました。」
「うん?」
01.Love Digger × 姫条まどか