乙女の半分は妄想でできています

□4・オトメノケツダン
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「お、おいっ!佐伯!?」
「瑛、」
 ハリーの驚いた声が響く。
 壁に寄り掛かるように、ずるりと倒れ込む瑛を見て声を上げると、若王子先生がにっこりと笑って、手にした瓶を掲げた。
「大丈夫、軽い睡眠薬です。少し眠るだけだから安心して」
「………」
 その顔を睨みつけると、瞳に意地悪な色が浮かぶ。
「大丈夫。佐伯くんにはなにもしないよ」

 思わず唇を噛む。
 逃げ出すことも、拒むこともしないのは、ほんの少しでも瑛を奪われたくないからだ。


「何言ってんだテメェ!おい、佐伯、しっかりしろ!」
 ハリーが首謀者である先生を睨みつけてから、瑛の近くにしゃがみ込む。
 危ない、と思ったけど、声には出さずにいたのは、これから起こることに比べたら大したことじゃないと思ったからだ。



「針谷くんまで佐伯くんですか……」
 心底悲しげにつぶやいた若王子先生が、力を込めてハリーの腕を引っぱり上げた。
「っ、腕に触んな!」
「ああ、すいません。こっちは利き腕でしたね」
 ギタリストとして咄嗟に腕をかばうハリーに穏やかな口調で謝りながら。あっさりと手を離した先生の目が、きらりと光る。
「そういうストイックなところも好きです」


「なにキモイこと……ッ!?」
 敵意をぶつけるハリーの言葉が、途中で途切れた。ハリーの後頭部に手を回した若王子先生が、その唇を塞いだから。

 ハリーの、驚愕のいろを浮かべた瞳が、逃れようと暴れるからだが、拒むように伸ばされた腕が
 絡みつくようなキスが深くなる内に、傍から見てもわかるほど快感に支配されていく。

「ん……っ、針谷くん……」
「…ふ、ぁっ、や…め……っ」
 上ずった声をあげるハリーの瞳は、まだ反抗する意思を訴えているけど、ハリーを押さえつけていた先生の腕が背中へと移動しても、振り払う素振りはない。

「針谷くん、針谷くん……」
 口内に収まりきらないほどの欲望をまとって、先生の長い舌がハリーの舌を蹂躙する。
 溢れたキスの合間に、先生の掠れた声が漏れる。ハリーの唇の端から雫が伝って落ちた。


 2人がキスに没頭する間、私は準備室の床に崩れた瑛を見つめる。
 苦しげに寄せられた眉間。
 意識を失う前、伸ばされた指先を疑うわけじゃないけど。
 私のせいで瑛が苦しむなら、どうしようもなく憎まれてしまえばいいと思う。
 そしたら瑛は、男の子でも私を抱いてくれるかな。どこまでもふかく、傷つけるためになら。




「海野さん」
 感傷に浸る間もなく、呼び戻された。
 暴れる気のおこらないほどに陥落したハリーを後ろから抱きしめた先生が、片手でハリーの胸元を乱しながら、にっこりと笑った。

「君もおいで?」










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