乙女の半分は妄想でできています
□3・オトメノタタカイ
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「困ったなぁ……」
思わずひとりごちて、天井を見上げる。
背の高いスツールに座って、おぼつかない足をぷらぷらと揺らしながら。
もちろん、どこにも答えなんて書いてないんだけど。
「辛気臭ぇなぁ」
笑み交じりの文句をこぼしながら、マスターが煙草の煙をくゆらせる。
「ごめん。帰るね」
はぁ、とため息をついて、勢いをつけてスツールから飛び降りた。
「別に追い出そうって訳じゃない。相談なら乗ってやるって言ってんだ」
慌てるでもなく、かといって追い出すでもない。態度全部で好きにしろって言ってくれてるみたいな包容力はたまらなく素敵なんだけど。
「若気の至り」
一言で応えると、苦笑が返ってくる。
「そりゃあ大変なこった」
「全くだよ」
出入り口に向かって歩きながら、肩をすくめて肯定する。
「瑛を犯そうとしただけなのに、先に穴掘られてまさか7股かけろとか言われるなんて、予想外。ホント、乙女の純真をなんだと思ってるんだろ」
「……純真の意味を辞書でひいてみろ」
マスターのあきれ返ったセリフを最後に、準備中のジャズバーを出た。
海野 あかり、羽ケ崎学園高等部2年生。うら若き乙女だけれど、現在わけありで男根所持中。
片思いの相手の初めてをいろんな意味で奪ってやろうと妄想していたら、はね学のフェアリー花椿 姫子先輩から、心底の同意と共に賜ったものだ。
なのに、片思いの相手 佐伯 瑛は、犯されてくれるどころか抱かれてもくれず、それどころかオレが抱いてやるから元に戻れとかのたまった。
違う、そうじゃない。抱くのと抱かれるのは別問題。どっちがより欲しているかなんて、言わなくてもわかるでしょう?
瑛が欲しくて滾る私を、瑛の中いっぱいに詰め込んで。瑛が泣いて嫌がるくらい心のままに蹂躙したら、深く深く刻み込んだ痛みの上に、とろけるような快楽を注ごう。
愛されたいのと同じくらい、憎んで嫌われたい。一つの方法だけじゃ嫌なの。何度も、どんなでも、瑛に私を刻みつけたいの。
そうしたら、いつか君を失くす日が来ても、なにかでつながっていられるはずだから。
こらえきれず、繁華街から脇道に逸れ、人気のないビルの谷間に身を滑り込ませた。
瑛を思うだけで、痛いくらいに張り詰めるココロとカラダ。
そっと陰部を露出して、浮き出た血管をいさめるように指先でするりとなでると、瑛の手の感触がよみがえった。
「瑛……ぅ」
ひとりでに雫が伝う。こころもち大きくなった手のひらでぴくぴくするそれを包んで、長い長い溜息を吐きだした。
大好き。