乙女の半分は妄想でできています

□2・オトメノジツギ
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「失礼します……」
 化学準備室の扉を開けると、教務用の机の前に予想外の姿があった。

「海野……なんでおまえ、ここに?」
「ぎゃぁっ、体操服瑛!ヤバイまた勃ってきた!」
「なに言ってんだよ……っ!若王子先生!?」
 考えてみればここにいるのは当たり前なのに、席に座っている若王子にぎくりとする。
 今の、やっぱ聞かれたよな……?
「大丈夫ですよ、佐伯くん。事情は海野さんから聞いてます。」
 海野の言葉をどうフォローしようか考える前に、若王子はにこっと笑ってこともなげに言った。
 安堵の息をついて、それから疑問に思う。
 ……事情を聞いたからって信用するような事じゃないだろう。
 そりゃ、海野の身体を見れば一目瞭然だけど
 ……こいつ、若王子にも見せたのかな。


「う〜ん、どうしよう……。
 瑛の体液にまみれながら瑛をわたしの体液で汚すって言うのもいいけど、体操服の瑛を犯すのも捨てがたいなぁ……。」
「どっちもないから。好きなだけ悩んどけ。」
 当の海野は真剣な顔して、気持ち悪い2択に余念がない。
「でもはね学の体操服はショートパンツの丈が長すぎますからねぇ……
 これだと脱がさずに隙間から挿入できないです。」
 ……なに言っちゃってるんだこの人は。
 笑顔は爽やかに、だけど若王子の視線はねっとりと俺の太腿辺りに絡みつく。
 ……もしかして
「なに言ってるんですか、先生。
 要所だけ出るようにずらして、中途半端に引っ掛った着衣で動きを拘束する感じがいいんですよ。
 ねぇ瑛。」
「俺に振るな変態ども。」
「ああ佐伯くん、もっと口汚く罵って下さい。」
 はあ……。
 なんかちょっと変態率高くないか?俺の周り……




「……ほら、海野」
「あれ、体操服?瑛、2着も持って来てるの?」
 手にした袋を海野に放ると、受け取った弾みで中からはみ出した体操服に、海野がきょとんと首を傾げる。
「いや、借りてきた。おまえがちゃんと洗って返せよ。」
「だったら瑛がこっち着れば?わたし瑛の着るから。」
「なんでそんなメンドクサイことしなきゃなんないんだよ!?
 いいからさっさと着替えろ!」
 不満げに唇を尖らせる海野の後ろで、鼻をヒクつかせた若王子がうっとりと目を細めた。
「ああ、この匂いは針谷くんの……それ僕に下さい。」
「……海野のせいで大分免疫付いたと思ったんだけどな、俺。」
 突っ込む気にもなれないくらい引きながら、これでもかとばかりにでっかいため息をつく。
 ……変態が二人だと十倍疲れる。




 一番恥ずかしいだろって場所はあんなに堂々と見せてきたくせに、なぜだか着替えは見られたくないと言う海野のために一度外に出る。
 ついでにさっきの疑問を若王子にぶつけると、若王子は花椿姫子の秘密についてなにか知ってる風だった。
 教えてはもらえなかったけど……いや、教えてくれるって言われてもちょっと迷うな。
「お待たせ、着替えたよ。」
 準備室の扉からひょこっと顔を出す海野は、やっぱり無駄に可愛くて。
「……もう汚すなよ。」
「うん!じゃ、早速ヤろっかショーパンずらして!」
「今うんって言ったよな?完全にうんじゃないよな?」
「いやいやだから、せめて下着の隙間から」
「ああもう、変態同士でヤってろ……」


 自分で言ってしまってから、ハッとして口をつぐんだ。
 なに迂闊なこと言ってるんだ、俺。
 こいつらはそんなこと平気でやりそうな奴らなのに。
 ……いや、そしたら俺は巻き込まれずに済むんじゃないか?
 変態は変態同士、俺には関係のない世界で好きなように……

「……瑛、ヒドイ」
 押し殺したような声に弾かれたように顔を上げるのと、海野の大きな瞳からぽろりと涙がこぼれたのは同時だった。
「……っ!」
「泣かないで海野さん。可哀想に」
 俺が悪者かよ!
 ……そうかもしれないけど、だけど
「なんでそういう事、簡単に言うんだよ……」
 伸ばしかけた手をありったけの力を込めて留め、ぽろぽろと涙をこぼす海野から目を逸らす。
 あんまり簡単に言うから、どこまで本気なのかなんてわからなくて
 誘いに乗って馬鹿みるのはごめんだって、意地張っちゃうんだ俺。

「そうですね……海野さんも悪いです。」
 不意に、若王子の優しい声が窘めるような響きを持った。
 若王子先生に同意されたことに俺はちょっと驚いてしまって、思わず視線を戻す。

「お尻も気持ちいいってこと教えてあげないと、佐伯くんだって簡単にはヤらせてくれませんよ?」
「だからなに言っちゃってんだよアンタは!?」
 見直しかけた俺の信頼を一気に打ち砕いた若王子は、海野の前に人差し指を突き出して、めっですよ!とのたまった。

「んん……でも正直わたし、自分が良ければそれでいいし」
「うんやっぱおまえは最低だ。」
「それじゃあダメです。性交渉はみんなが気持ち良くならないと、ただの性的暴行ですよ?」
「正にその性的暴行がしたいです。」
「いっぺん死んでこい!」
 まだ目に涙を溜めたままの海野がさらりと言う非道なセリフに、さすがに俺がキレそうになったそのとき



「……じゃあその認識、改めてあげましょうね。」
 とんでもなく綺麗な微笑を浮かべた若王子が、イキナリ海野を引き寄せた。
「きゃぁっ……先生!?」
 堪えきれず仰向けに倒れた海野の身体が、机にぶつかる手前で肩を支えて衝撃を防いだ若王子が、そのまま机の上に海野の身体を押し付けて
「……っ!?」
 思わず言葉を失う俺の目の前で、そこに覆いかぶさるように身を屈めた若王子の唇が、海野の唇を塞いだ。
「……っ、やぁっ!」
「もっと嫌がってくれていいですよ?」
「せんせ……っ、痛い!」
「おやおや、痛いのは嫌いですか?」
「……っ、ひぁっ!」
 慌ててもがいて逃れた海野の唇を深追いはせず、露になった首筋を舐め上げた若王子は、くすりと笑みを零す。
「海野さん。……佐伯くんが見てますよ?」
「っ!」
 ひくり、と海野の身体が震える。
 そこでようやく我に返った俺は、慌てて若王子から海野を引き離そうと駆け寄った。

「……っ、なにやってんだよ!!」
「証明ですよ?」
「や、瑛……っ」
 上体に被さった若王子の下から、懸命に俺に伸ばす海野の手を引き寄せた。 その身体を抱きしめながら、若王子を睨み付ける。
「なに訳のわかんないこと……」
「先生、証明って……?」
 俺の身体に震える腕を回しながらも、若王子を振り返って尋ねる海野に、変態教師は満足そうに微笑んで、答えた。



「男に犯されるのも気持ちいいってこと、ちゃんと教えてあげます。」





 
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