ときめきバグりある!2nd life

□21・世界は今日も周ってる
1ページ/3ページ




 差し込む光がまぶしくて、目が覚めた。
 灯台の小さな窓から朝日が遠慮なく照らしていて、思わず目をつぶって丸くなる。

「いた……」
 体に走る鈍い痛みに、二度寝する気満々だった意識が覚醒する。
 ……なんだろう、この体の痛み。
 筋肉痛に似た、だけどもっと体の芯からくるような鈍痛。不快なものではないけど、実際の疲れ以上に疲れを感じているような。
 昨日、なにか無茶でもしただろうか?
 考えてみても思いつかず、ぎゅうっと眉間を寄せてみる。まさかこれは加齢による回復低下とか関節の痛みとかだろうか。いやまさかさすがにそんな年齢じゃぁ

 枕元で携帯のアラームが鳴り、反射的に目覚ましより早く起きてやった達成感を思い知りながら手元に引き寄せる。
「ん?」
 ディスプレイには、思っていたより早い時間が刻まれていた。
 ……わたし、どうしてこんな時間にセットしたんだろう。




「おはよう、瑛」
「おはよ」
 珊瑚礁で朝食の支度をしていると、パジャマ替わりのラフな姿のままの瑛が降りてくる。寝癖がついたままの髪と、遠慮なく繰り出される大きなあくび。
 可愛い……可愛いよ!
 心許してもらえてるんだと思うと湧き上がる喜び。しかし、どうもベクトルが母子に近いことに若干慄きながら、ボウルに炊き立てのご飯をうつす。

「腹減ったー。りある、朝メシなに?」
 顔を洗ってきた瑛が、首にかけたタオルで顔を拭きながら、調理スペースを覗き込む。
「あ、混ぜご飯だ。枝豆のやつ、俺、好き」
「私も好きだよ、瑛!」
「いきなりなんだよ!?」
「混ぜご飯だよ?」
「……わかってる!!」
 ほんわかムードが悔しくて、ちょっとからかってみたら、相変わらず秀逸なリアクションが返ってくる。
 これだからからかうのがやめられない。たとえアダルティなムードを自ら破壊しているのだとわかってはいても。


「あ、ねえ、瑛」
「なに」
「今日ってなんか早起きするような予定あったっけ?」
 まだ根にもってるむすっと口調はスルーして、ご飯をよそった茶碗を渡しながら気になってたことを尋ねてみる。
「今日?えぇと……」
 瑛がカレンダーを見ながら少し考え込む。
 目覚ましは、朝からがっつり化粧して出かけるくらいの時間がセットされてたのに、昨日の夜の記憶が曖昧で、自分のことなのに思い出せない。
「……や、なにも聞いてなかったと思うけど」
「だったらいいんだ。……よし、と。食べよっか!」
 とはいえ、なにか出かけるような予定だったら、朝ごはんやその後片付けにも関わるから、瑛には絶対言ってるハズ。
 ようやく胸をなでおろして、カウンターで待つ瑛の隣に座る。

「「いただきます」」
 2人分のいただきますが綺麗にそろって、思わず笑みがこぼれた。













 学校に行く瑛を見送り、朝の穏やかな日差しに煌めく海を見下ろす。体を逸らせて伸びをすると、また鈍い痛みが走る。
 ……いったいなんなんだ。

「りあるさん」
 さすがに気になって腰をさすっていると、道の方から声がかかった。
「マスター?おはようございます!」
 振り返るとそこにはマスターの姿がある。いつもは昼前に仕込みをしに来るマスターが、こんな時間に来るのは珍しい。
 私が珊瑚礁に来た日を除けば初めてだ。あの時は、この世界に迷い込んだ私のためだったから、本来は用事のない時間のはず。

「りあるさんのご機嫌伺いです」
 首をかしげる私にむかい、マスターはいつもどおりの優しい笑みをうかべる。
「ご機嫌伺い……ですか?」
「……もしかして、覚えてませんか?」
 マスターは、おやおや、と言わんばかりに目を丸くして、困ったように微笑んだ。
「昨夜、珊瑚礁が終わってから、二人で飲んだでしょう」
「……あっ」
 マスターの言葉に、記憶がよみがえる。
 片づけを終え、瑛が勉強すると二階に上がっていった後、マスターがもらい物なのですが、と高級そうなワインのボトルを出してきたのが昨夜。

「質のいいものだったので、悪酔いはしないと思ったのですが、お勧めしすぎたようですね」
「そんな!すいません、飲みなれてないもので!」
 マスターに申し訳なさそうに言われ、あわてて両手を振った。うわぁ、私なにかしでかしてないだろうか
 酔った勢いのことなので自覚はないのだけれど、私は若干絡み酒のケがあるらしい。……と、一緒に飲んだ人によく報告される。
 もちろん、缶ビールの一本や二本では大丈夫だけど、ワイン……どのくらい飲んだんだろう。

「あの……私、なにかご迷惑を」
「とんでもない。とてもかわいらしかったですよ?」
「なにしたんでしょうかぁぁっ!」
 顔を赤くする私の問いを柔らかく笑んでスルーして、マスターは優しい声で逆に問うた。
「お体はなんともないですか?」
「はい!ちょっと節々は痛みますが、開店までには調子を整えておきますのでっ!!」
 経営者を前に、私はとにかく低姿勢で頭を下げる。それをやんわり制して、あくまでも優しいマスターは、ではおねがいしますという言葉を残して去って行った。


 ……酒は飲んでも飲まれるな。






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ