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□舐めときゃ治るって?
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【T】

「それにしても……小さいな」

桜子に待機していろと言われた部屋で。
アゲハの後ろ姿をぼんやりと見ながら、飛龍が呟いた。

たった数年。
あの頃は自分のほうが小さくて、いつも泣いてばかりいた。
それなのに、今は。
この身長差だ。

「うるせぇ! お前がでかすぎんだよ!」

どうやら先程の飛龍の呟きが聞こえていたようで、アゲハが振り返って怒鳴る。



――今なら、押し倒すことも容易にできる。

こいつが弱いわけじゃない。
体格差というものだ。

ふと、そんな考えが頭をよぎった。
飛龍自身、何故『押し倒す』などという考えが閃いたのか分からなかった。

ただ、最近のアゲハの行動は見ていて危なっかしい。
後先考えずに飛び出していくものだから、心臓に悪い。
しかも、必ずと言っていいほど傷を負ってくる。
いつか、消えてしまいそうな危うさがあった。



「おい! 聞いてんのか、ヒリュー!」

怒気を孕んだような声がして、はっと我に返る。
前方を見やると、むすっとした顔で、見上げてくるアゲハがいた。

「アゲハ……お前、あんまし無理すんなよ」

飛龍の言葉に、アゲハは怪訝そうな顔をして首を傾げる。

「別に無理なんか――」

「傷、また増えただろ」

「え、ちょ、おい! 待て、どこ、触って……っ!」

有無を言わさず、アゲハのシャツを捲り上げ、生々しい傷にそっと指を這わす。

「ほら。この辺全部そうだろ」

「こんな傷舐めときゃ治るっての」

「……じゃあ」



オレが舐めてやるよ。




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