B◆巻物◆
□てのひら
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人ごみでも目を引く長身。
日の光を浴びて透けるように煌めく銀髪。
遠くに居ても分かる美貌。
そんな人が向かいから歩いてきてるのに気付かないわけがない。早く近付かないかと思った。
むしろ、自分に気付いてなかったらどうしようかと思った。
このまま素通りされたら、と内心怯えてた。でも怯えたのに気付かれるのも、駄目だ。意識してるのがばれるから。
気付くかどうか見てて、気付かなかったら笑ってやる…位の調子じゃないと。
それが“普通”だから。
こうして変にドキドキしてる自分は“異常”なんだから。
考えれば考えるほど、どう理由をつけようとしても、どうにもならならない。その度に無駄だと思い知らされるだけ。
その葛藤をもう何度しただろう。
何年続けてきただろう。
「よ!」
「オッス……」
ナルトの心配をよそに、普通に声をかけられた。
流石に気付かれていたらしい。
当然だけど。
相手は上忍だし、ナルトだって気配を消してるわけでもない。無視されてるんじゃなければ、声かけられるのは当たり前。
でも、少しでもナルトに気付いて嬉しいような気持ちになっていてくれたら良いのにと思う。会えてちょっとでも喜んでくれていたら…と思う。
そんなの……ナルトの希望でしかないだろうけど。
「お前、休みなの?」
「うん。先生も?」
本当は聞かなくても知ってる。
モテるカカシ先生の噂は聞こうとしなくても耳に入ってくるのだ。それともナルトが気にしているから、つい耳が勝手に聞いてしまうのだろうか。
でも、だから知っている。
カカシ先生は正月は休み無し。
独身の上忍なんて、正月とか行事の時には真っ先に任務を押し付けられるもの。もちろんナルト達のような中忍、下忍も然り。
カカシ先生も当然、みっちりと予定を詰められて他の上忍が休み明けになってから、ようやく休み。その分いつもよりは多く休める、っていう話。
何して過ごすのかな、って気になりはするけど聞いてない。
チャンスが無かったのもあるし、聞いてもも仕方ないって気持ちもあった。聞いて一緒に過ごせるわけでもないし…。
聞くだけ虚しいと思ったのだ。
「買い物?」
「うん、ずっと任務に出てたから食料何にも無くってさ〜」
「なるほど」
じゃあまた、と手を上げると、ナルトはそのままカカシの隣を通り過ぎる。カカシの予定も聞き返せば良いのに、気持ちに気付かれるのを怯えるあまりにそれが出来ない。
本当はもっと話したいくせに。
本当は、もっと長く一緒にいたいくせに…。
でも、一緒に居たい気持ちがばれたらいけない。
そう思うと、一緒にいたい筈なのに、一緒にいるのが辛くもある。心苦しくもある。
矛盾している。
いつまで、こんな事を続けるのかな…なんて思いながらも、自分から止める事も出来なくて。そういうところはいくつになっても変われない。
成長できない。
いや、成長したからといって割り切れるものでもないだけなのか。
「ナルト」
ふいに背後から呼ばれた。
振り返れば笑顔を浮かべるカカシと目が合う。つられて、ナルトの顔にも自然と笑顔が浮かんだ。
あくまで普通の、生徒としての。
「何?」
「この後、ヒマ?」
カカシの意図が読めなくて首を傾げる。
変に期待してはいけない。期待した自分の方が馬鹿なのに、期待が外れると凹んでしまうから。
何度もそうして自己嫌悪に陥ってきたんだから。
「ヒマだけど、何で?」
「一緒に初詣行かない?お前もまだ行ってないでしょ?」
「そりゃ、行ってないけど……」
どうして自分を誘うんだろうと不思議だったけど、気まぐれでも嬉しい。カカシ先生と一緒にいる理由が出来た。
でも嬉しくても、喜びすぎてもいけない。
「他に誘う人いないのかよ〜。カカシ先生ってば寂しい大人だってばよ」
「寂しいってお前ねぇ…」