B◆巻物◆

□好きだから。 K_side
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日に日に、ナルトへの思いはどんどん膨らんでいると思う。

子供相手にこんなに夢中になっているなんて、傍から見れば酷く馬鹿げた事のように映るのかもしれない。だけど正直、恥も外聞もないところまできているようにさえ思う。

だけど、それはあくまでも俺個人の話。


ナルトにとってはそう簡単な問題ではない。

ナルトは子供だ。子供であるが故に、何物にも染まりやすい。

俺が好きだといえば、きっと深く考える事もなく俺が恋人だと思い信じ込むだろう。そんな子供を騙すような真似をするわけにはいかない。

ちゃんと分別のつく年になって、それからちゃんと伝えたい。

子供のナルトには無限の可能性が眠っていて、どうなっていくか今からが大事な時なのだ。ただでさえ『九尾』というハンデを背負っているのだから、これ以上のリスクをナルトに背負わせるわけにはいかない。

恋人が男、ましてやこの年の差なんて、ナルトの邪魔にしかならない。




そんな事を考えていたら、目の前に大きな影が出来たのに気付いた。威圧感バリバリの高身長に、ムサいと言われるぎりぎり程度に濃いひげ。動物に喩えられたら確実に“熊”だろう男、アスマがそこに立っていた。

しかも何故かその手には、おしるこの缶が握られている。

俺が本を見る振りをしながら様子を伺ってるのなんて全部気付いてるくせに、何にも気付いていないといった風で、そのおしるこの缶をナルトに差し出す。

「ちょうど小銭があったから奢ってやるよ」

ナルトは大好物を差し出されては、もちろん受け取らないはずも無く…喜んでその缶を受け取っている。

別にこんな事で嫉妬するつもりはないけど、ね。

「サンキュー!アスマ先生!」

よっぽど嬉しかったのか、ナルトは満面の笑みでアスマにお礼を言っている。

そんな可愛い顔をアスマになんて見せてやらなくて良いよ〜…、と思っていると、アスマがニヤリと笑ったのが分かった。ゆったりとタバコを燻らせながら、俺の事なんて見向きもしないけど、わざと俺を煽っているのは間違いない。

そっちがその気なら…と俺は本気で殺気を飛ばしてやる。

一瞬びくりとアスマの肩が揺れて、驚いたように俺を見たのが分かった。それでも俺は本から顔を上げず、さっきまでと変わらぬ様子を保つ。面白がっているのなら、こちらの動揺を見せては駄目だ。

何気なく、それでいて本気のような……その方が脅しの効果は高いだろう。

すると、さすがのアスマも肩を竦めて踵をかえすと、俺達とは少し離れた位置に腰を下ろした。いつもなら向かい側に座るくせに、さすがに今のは効いたらしい。

本当に自分でも馬鹿な事をしていると思う。

自覚はある。ただ、それでは止まらない程にナルトが大事だという事なのだ。



想いを告げるつもりはない。

けれど、みすみす誰かに奪われるつもりもない。



ナルトはアスマに貰った缶を開けてグイッと一口。何とも言えない幸せそうな顔でもう一口。そんなに嬉しそうな顔するんなら、俺がいくらでも買ってやるのに……なんて考えてみたり。

そこで、ふとナルトが俺を見上げた。

何か言いたげな目でしばらく俺を見つめていたけど、何も言わずに視線をおしるこの缶に戻して俯いてしまった。やっぱりちょっとそっけなさすぎただろうか?




──だけど我慢するしかないじゃない。

こうして側にいられるだけでも幸せだもの、嬉しいんだもの。子供のナルトに、大人げない大人の俺の我儘なんて、言いたくても言えない。







「カカシ先輩」

いきなり知らない女が声をかけてきた。いや、任務で何度か一緒になっただろうか。

すらりと伸びた手足に、背中まである長い黒髪、容姿は並よりは上という程度のいたって普通の女の人だ。ナルトをちらりと一瞥して、すぐに視線は俺に戻る。

へぇ、ナルトが邪魔だとでも言いたいわけ?

お生憎様。俺が、俺の我が儘でナルトをここに置いているのだ。それを他人にとやかく言われる筋合いはない。なのに、そういう態度されちゃったら…まず俺が機嫌悪くなっても仕方ない…よね。

「少しお話しても言いですか〜?」

猫なで声で話しかけてくるのも、本当に気分が悪い。

でも横でナルトが微かにではあるが、嫉妬のような表情を見せたのが分かった。たとえ愛情ではなくても、気に入った玩具を取り上げられる様な感覚なのだとしても、ただ俺に執着してくれた事が嬉しかった。

もうナルトのその表情だけで機嫌がなおった俺って単純?

というか、末期か…。

そして末期な俺に、どうせヤキモチ焼いてくれるならもっと焼いてもらいたいな〜…という出来心がむくむくと顔を覗かせたのだ。ナルトにとってはいい迷惑だろうけどね。

「……いいよ」

気付いたら、その見知らぬ女にそう答えていた。

ナルトの睨むじゃないけど嫌なのに止める事も出来ない困った感じの視線がまた堪らない。可愛いね!本当に抱きしめちゃいたいね!………我慢するけど。

俺はずっと握り締めていた本を閉じると、ポーチにしまって立ち上がる。

ああ、ナルトが俺の裾を掴んで引き止めてくれたら……!

…と勝手な事を考えて、ナルトはまだそこまで出来る子じゃないかと苦笑する。それよりも、むしろここで落ち込んで家に帰られたら元も子もない。

慌てて…慌てていないように見せながら、ナルトの方へと振り返る。

ニッコリ、それこそ抱きしめられない分の愛情を思いっきり注いだ笑顔でナルトの頭を撫でてやる。突然の事に驚いている顔も、もちろん可愛くて仕方ない。

落ち着け、俺。と自分に言い聞かせていないと我慢できなくなりそうだ。

「すぐ済むから、ちょっとだけ待っててね」

ナルトだけじゃなくて、そこの馬鹿な女にも聞こえるようにハッキリと言ってやる。

女だけじゃなくて、ナルトもちょっと驚いたみたいだったけど、こんなの当然の事だ。こんな風に言えば、いくら図々しい女でも早く話を終わらせて欲しい…って言ってるのぐらい分かるデショ。

やっぱりナルトにまだ嫉妬させるのは早いかな。

今はまだ心も体の成長の途中なんだから、優しく優しく育ててあげる方が俺自身も楽しい。嫉妬してもらうのは大人になって、恋人になってからのお楽しみにしておこう。



ふと見れば、そんな俺達のやり取りを見ていたらしいアスマが腹を抱えて笑っていた。馬鹿な事してるって自覚してるさ!分かってるさ!笑いたいなら笑うが良い!

笑われたって、俺はこうしか出来ない。

俺はアスマの視線など気にせず、ナルトを残して、さっさと話を終わらせるべく女と少し離れた位置に移動する。この女がまともな話をするとは思えない。ナルトには要らぬ事を聞かせたくなかった。

案の定、どうでも良い話。聞く価値もない。

笑う女。何が楽しい?俺の機嫌が悪いと気付かないのか?割と露骨に気配に出てるだろうに、相当鈍い女か。もしくはそれを物ともしないほど図太い女?

どっちにしろ俺には関係ないけど。

とにかく早く話を終わらせてナルトの所に戻りたい。ナルトに触れたい。ナルトの声が聞きたい。考えるだけでも幸せになれる。

ナルトが俺の精神安定剤になる。

だからこうして愛想笑いも何とかできる。ナルトが居るから。ナルトの気配を、視線を感じるから……




──だけど我慢するしかないじゃない。

俺が抱きしめれば、例えちゃんと愛し合っているのだと説明しても、辛辣な差別的な…ナルトを傷つける言葉を投げかけられるのなんて分かってる。ナルトは子供で、俺は大人で、二人の立つ位置はあまりにも遠くて、側に立ちたくても、立たせてもらえない。こうして側にいられるだけでも幸せデショ。

もっと近づきたい、なんて………いくら心で望んでも口には出せない。

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09.02.18

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