B◆巻物◆
□依心伝信−イシンデンシン−
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やや頬が高潮したナルト。
目も、少し潤んでいるような気がする。
そんな可愛い顔を見せられたら理性がもたないかも…なんて腐った事を考えながらも、ちゃんと『先生』として頼ってもらえそうな事が嬉しかった。頼りにされてないとはいわないが、ナルトが一番頼りにしている人間はきっとイルカだろう。
そりゃ、イルカにも相談したかもしれない。
だけど俺にも相談しようとしてくれている。例えイルカでは答えを出せなかったから、という理由だったとしても嬉しかった。
今だけは、俺だけを見ているナルトが嬉しかった。
ナルトはしばらくモジモジしていたが、やがて意を決したように口を開く。
「オレね……カカシ先生のことが好きなんだってばよ」
一瞬、頭が真っ白になった。
この子は今何と言った?!…と。
大人げない俺の脳みそが見せた妄想がこんなにもリアルに見えてしまったのか、と。
そんなにもこの子供に俺は恋い焦がれてしまったのかと焦ったが、どうやら現実らしいと思い直す。そしてその本当の意味にも思い当たった。
「うん、俺もナルトが好きだよ?」
ナルトの顔はすごく真っ赤で、それがとても可愛らしい。でも俺が返事を聞くと、その顔があっという間に曇ってしまった。
俺は本当の意味が分かったけど、ナルトにしてみればそれが本気なのだろうから仕方ない事なのだが。悲しませたくはないが、ナルトの為には本当の意味に気付かせるのも大切な事だ。
「好き…なの」
「うん、ありがとう」
俺はにっこりと笑って、ナルトの頭を撫でた。
いつもと同じように、優しく慈しむように。いつもならこうすると、ナルトは幸せそうに笑って俺の手の感触を喜ぶように笑ってくれた。
俺はそれが嬉しくて、作り笑いじゃなくて普通に微笑むことが出来た。
でも今日はさすがに作り笑いでしかいられない。
ナルトはそんな俺の手を掴んで自分の前に持ってくると、ぎゅっと自分の手で包んだ。そのちいさなナルトの手が愛しくて、ついナルトを抱きしめてしまいそうな自分を理性が止める。
「そうじゃなくてね、先生。オレってば、オレってば……」
ナルトは俺に気持ちを伝えようと必死だ。その姿はとてもいじらしくて、可愛くてたまらない。
だけどね、それは違うんだよ。
「勘違いだよ」
「え?」
「たまたま近くに強い忍がいて、憧れてるだけ。子供の頃にはね、まぁ…よくあることだよ。ほら、お前が好きなのはサクラでしょ?」
「サクラちゃんは……大切な友達だもん。オレは、ちゃんとカカシ先生のことが好きなんだってばよ!!」
ナルトは必死に言い募るけれど、俺はそんなナルトから目をそらすしかない。
見ていたら、理性に負けて抱きしめてしまいそうだ。
そんな自分に反吐が出る。
ナルトの為を思えば、そんな事出来ないのは分かりきってるくせに、自分の理性を抑えるのにこうもぐらつくなんて。
俺は、俺の気持ちをナルトに告げる気は無い。
告げたくない…というよりも告げるつもりも無い。
告げればきっとナルトは旅立ちを迷うだろう。そんな足枷にしかないらないと分かりきった状況で思いを告げるほど、俺は愚かじゃない。
俺はナルトの足枷になんてなりたくない。
ナルトは自分の夢に向かってまっすぐでいて欲しい。
「子供だから、『好き』が良く分かってないんだよ」
「子供じゃないもん!」
「子供だよ。俺とお前は14歳離れてるんだよ?ナルトから見たら俺なんてオジサンでしょ?俺から見たらナルトなんて、まだまだガキだよ?」
もういっそ、俺の事なんて嫌ってくれて良い。お前の言葉なんて幼い恋の告白なんだから、修行の間に忘れてしまっておいで。
お前の未来に、俺が立つのを許されるポジションはそこじゃないデショ?
あくまで『先生』。
あくまで『上司』、『忍としての先輩』。
お前にとっての俺はそれで良い。