B◆巻物◆

□依心伝信−イシンデンシン−
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ナルトはもうじき自来也様と一緒に修行の旅に出る。

いつか教え子たちは俺の手を離れていくのだと覚悟はしていたけれど、ウチの班はその予想よりもずっと早かった。

同期や一緒に中忍試験を受けた連中と比べるまでもない。

明らかに俺達、カカシ隊第七班の解散(と言いたくはないが)は早かった。

サスケが音に走り、それを連れ戻すためにサクラは綱手様に弟子入り。時を同じくして、ナルトも事実上の自来也様への弟子入りを果たす。四人一緒にいた期間を考えれば一年にも満たない。

中忍試験期間中を考えれば、もっと短い。

子供は嫌いだと思ってたが、こうして実際離れていくと思うと妙に感慨深いものがあるのは何故だろう。



中でも、ナルトは監視役ということもあって一番長く一緒にいた。



ご飯も一緒に食べたし。

一緒に風呂にも入った。

お互いの家に行ったら一緒に寝るのは当たり前で、抱きしめたまま寝た事もあった。

ナルトは何だかんだ言って、懐いたらかなり甘えたがりで、俺もそれが嫌じゃ無かったから、好きなだけ甘えさせた。むしろ甘えられるのが嬉しくさえあった。

子供なんて嫌いだと言いながら、ナルトだけは別だった。

サスケと話してても、サクラと話してても、こんな気持ちにはならない。



ナルトだけが特別なのだ。



そのナルトが自分の側から居なくなるのだと思うと、すごく胸が締め付けられる。

悲しいとか、寂しいとか、つまらないとか…

お気に入りの玩具を取り上げられる子供の気持ちだと、自分に言い訳してみても、それだけではないとちゃんと分かっていた。

だけど、それは俺しか知らなくていい事だから。

ナルトには知って欲しくない、独りよがりな感情だから。





いよいよ明日出発という日、夕方になってナルトが俺の家を訪ねてきた。

色んな奴にしばしの別れを告げてきたのか、手には餞別と思しき荷物を沢山抱えている。それに嫉妬しつつも、自分は寂しがるばかりで餞別に用意など考えすらしなかったな…と反省する。

玄関を開けて中にどうぞ…と言ったのに、なぜかナルトは動こうとしなかった。

不思議に思ったけど俺が肩を抱いて中に入れてやると、抵抗はしなかった。そして定位置のソファに腰掛ける。

自分にコーヒー、ナルトにホットミルクを出してやって、俺は向かい側に座る。

ナルトは何にも喋らなくて、ただじっと俺を見ていた。

俺はナルトと目が合わないように違う方を向く。まっすぐなナルトと目が合うと、飲み込んだはずの言葉や感情がつい溢れ出してしまいそうになりそうで怖かった。

「何?そんなにじっと見ちゃって…」

ずっと黙っていても仕方ないと、俺の方から声をかけてみる。

ナルトはびくりと肩を揺らした。

どうやら緊張している…らしい?

こんなに大人しいナルトは随分と久しぶりに見る。俺に懐く前までは、こうして二人でいても警戒して何にも喋らず動かず、こちらの気配を窺っていた。

その頃に、少し似ている。

「明日から当分会えないね。ちゃんと自来也様の言う事聞かなきゃ駄目だぞ〜」

俺もなかなか手を焼かされたしね、なんて笑って見せる。

でもナルトは笑わなくて、俯いてしまった。

どうも様子がおかしい。

部屋に入る時からそうだったけれど、元気も覇気も無い。

明日の別れに心細くなっているのだろうが、それでもいつものナルトなら無理してでも笑う気がした。人にかなり気を使うし、人に自分の弱みを見せることを良しとしない。

だからナルトは笑うだろうと思っていた。

なのにナルトは笑っていない。それがもし、それだけ俺との別れを惜しんでくれているのなら、それはそれで嬉しくもある。

それとも何か別の悩みでもあるのだろうか。

だとしたら明日スッキリした気持ちで旅立てるように、『先生』としてちゃんと相談に乗ってやった方が良いだろう。

単に長期に渡って里を離れることに不安を感じているだけなら良いのだが。

何にしても、こんな顔のナルトは見ていて切ない。

「……あのさ、先生」

やっとナルトが口を開いて、ホッとした。

それでナルトの緊張が自分にも伝染しているらしい事に気付いて、そんな自分に自嘲の笑みが浮かぶ。

こんなにも自分は、ナルトの事に必死になっているなんて…。他人のためにこうも気を揉むなんて、昔の俺からでは考えられない。

顔を上げたナルトは、やっぱりぎこちない表情で、俺はどきりとする。

もちろんそれを表情には出さないが。

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