B◆巻物◆
□好きな人
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「今日、お前の家に行かなかったからそう思ってるんだったら、それは…」
「もう良いんだってば」
言い訳じみた事はあんまり聞きたくなかった。
カカシ先生もこれ以上嘘つかなくて良いんだってばよ。無意味な言葉を考えるのなんてめんどくさいでしょう?だからオレの事なんて、放り出して捨ててしまって良いのに。
なのに、そうしない。出来ない…?
カカシ先生って優しいんだよね。あと、『任務』に忠実。オレの監視というか、『九尾』が出てこないように監視し、オレの精神の安定を図り、里の平穏を守る。
だからオレが先生を好きだって言えば拒まないんでしょ?
好きじゃなかったとしても、好きだって言ってくれるんでしょ?
オレを振れば、オレの精神が不安定になって、それで『九尾』が出てくるんじゃないかって心配してるんでしょ?オレも正直、自分がどうしようもないくらいに動揺したら、どうなるかなんて分からない。
だけど、カカシ先生を苦しませるような事は絶対にしない。
「先生に振られたら、イルカ先生に慰めてもらうし!シカマルでも、キバでも、みんないるから…だから、」
オレの事捨てて良いよ。
大丈夫だから。
「……やっぱり、お前は俺じゃなくても良いんじゃない…」
カカシ先生はまた溜め息をついて、オレの手を離した。その温もりが離れただけで、手が酷く冷たくなった気がする。
それだけで、すごく胸が締め付けられる。
「オレは、お前さえいれば良いのに……」
その声は酷く悲しげで。演技だというには、あんまりに、あんまりで…、オレの胸はますます締め付けられてしまう。
悲しいような、苦しいような、鼻の奥がツンとして、涙が零れてしまいそう。
オレだってカカシ先生さえいれば良い。
カカシ先生だけで良い。
だけど、世界はオレとカカシ先生の二人だけじゃないから。
「だって、オレがカカシ先生がいないと死んじゃう!…とか言ったら先生はオレのこと捨てられないでしょ?」
「〜〜〜〜っ!だから、…なんで俺がお前を捨てるのよ?!」
ビックリした。
いきなりカカシ先生が声を荒げた。顔も、いつの間にか怒った顔に変わってる。
怒ってる…。
“オレを捨てて”って言った事に?
「捨てないよ、絶対。むしろ部屋の奥に閉じ込めて俺だけしか見ないようにしたいくらいなのに…」
カカシ先生の目は真剣で、燃え盛る炎のよう。見つめられていると、身体のその部分だけが熱くなってくるような気さえするほどの強い視線。
オレは、どんな顔でカカシ先生を見つめてる?
カカシ先生に、オレはどう見えてる…?
「そうすれば、お前が好きなのは俺だけ、デショ……」
言葉はかなり身勝手なものなのに、カカシ先生の表情は悲しそうにも見えた。
その時、オレはやっと理解した。気付いたらすごく馬鹿な話。オレ達は、お互いにお互いを好きだと言いながらも、信用しきれないんだ。
考えてみれば、カカシ先生は大人なんだし、色々場数を踏んでるのだろうから…オレが好きだと言ってもオレをやんわりと断る事だって出来たはずだ。無理してオレを付き合うほうが面倒くさいだろう。
でも付き合ってくれたって事は、少しなりともオレの事を好いていてくれてるから。
そう…思う。
今のカカシ先生の言葉を聞いて、思った。やっと、今になって信じられたっていうのもおかしな話なんだけど。
カカシ先生は任務の時だって、気持ちを隠すことはあっても、気持ちを偽ることを良しとしない。カカシ先生の言葉はいつだって、まっすぐにオレの胸に届いてた。
オレが素直に聞こうとしてなかったんだ。
だけど、オレは信じたいのに信じきれない。
好きだって言われても、いつかは終わりが来ると思ってる。
だって、オレのせいで里の人間に疎まれたらオレの事嫌になるでしょう?
だって、面倒でしょう?
だって、邪魔でしょう?
オレだって苦しい。なのにこんな目にあうのが、もし自分以外のせいでとしたらたら相当きついと思う。
オレは誰かに裏切られる事に慣れすぎた。
信じれば裏切られるのは当たり前。信じなくても裏切られるけれど、信じるほどに、裏切られたときの傷は深い。
信じる事を、本能的に恐れるようになってたんだ…。