B◆巻物◆
□好きな人
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「オレは、カカシ先生が好きだよ?」
「それは分かってる」
振り返らないままカカシ先生が言う。
「一番好きだし、カカシ先生じゃなきゃだめ…だよ?」
オレは一歩踏み出してカカシ先生に近付く。
カカシ先生は動かないから、オレはまた一歩カカシ先生に近付く。そのまま近付いて、カカシ先生のすぐ隣に立つ。カカシ先生はやっぱり振り返らずに窓の外を見つめている。
それは明らかな拒絶だった。
いつもなら、すぐ手を繋いでくれる。むしろカカシ先生の方から引き寄せて抱きしめてくれる。
だけど、今日はそれが無い。しかも目も合わせてくれない。
じゃあ、もう、間違いないじゃない。
今日が最後、今日で終わり…なんだってばね?
オレはごくりと生唾を飲み込んだ。沈黙が重くて仕方ない。
手が震えないように。
声が震えないように。
平然と。
冷静に。
淡々と。
動揺を悟られてはいけない。
「だけど、好きだから言うってばよ。」
深呼吸したいけど、すれば動揺を悟られそうで出来ない。いくらカカシ先生がこちらを見ていなくても、上忍だし気配で気づかれてしまうだろう。
こちらを向いて欲しいし、向いて欲しくない。
「…何を?」
「……もう無理して『好き』って言ってくれなくていいから…」
カカシ先生の肩がピクリと揺れた。
動揺してるのかな?オレがカカシ先生が無理して付き合ってくれるって気付いてるなんて、思いもしなかった?
「オレの相手するの疲れたんでしょ?」
手が震えそうになっているのに気付いて、ギュッと握り締めて耐えた。カカシ先生は見てないし、きっと気付かれてない。
「だったら、もういいってば…」
あっさりと言ってみる。
「オレってば、カカシ先生のこと好きだからさ…もう解放してあげる。オレの相手なんてしてないで、自由に自分の好きな事して良いよ」
あっさり、軽く、笑ってさえ見せた。
なのにカカシ先生の反応はなく、沈黙はますます重くなる。
あまりに静かで、呼吸すら邪魔な音のようで、つい息を詰めてしまいそうだ。でも今はその沈黙を破って言葉を紡ぐしかない。
重い沈黙は、まるでコレが重要な話みたいじゃない。
そうじゃない。カカシ先生は何にも気にしなくて良いよ。オレも気にしないから、その程度の事だから……ってアピールしなきゃ。
「カカシ先生が一番好き。だからカカシ先生には幸せになって欲しい。オレの存在がその邪魔になるなら、オレはいなくなっていい…」
カカシ先生は大きなため息をついた。疲れたような、呆れたような、諦めたような…そんなため息だ。
そしてゆっくりと振り返ってオレを見る。逆光ではあっても、これだけ近かったら表情も見える。見たかったはずの表情だったけど、カカシ先生は無表情で怒ってるというよりは…悲しそうかもしれない。
カカシ先生が、そっとオレの手をとった。
暖かい手にぎゅっと握りこまれて、オレはドキンと心臓がはねた。カカシ先生は静かに目を閉じて、そしてもう一度ため息。
「あのさ、俺達…話がかみ合って無い、よね?」
カカシ先生は手を引いて、オレを隣に座らせる。
それまではオレがカカシ先生を見下ろしていたけど、今度は見上げる形になって表情はより見やすい。オレ達の手はまだ繋いだままだ。
「オレはお前が好きなんだって言ってるでしょ?」
「うん」
即答するオレに、カカシ先生はまた溜め息。
「じゃあ何で理してるって思うの?疲れたって思うの?もういいって何?何でオレにとってお前が邪魔なのよ?そんな訳ないでしょ、好きなんだから」
いつになく饒舌な先生。
いつもと違う先生。
それは何で?図星だから?
「こんなに緊張して、何言ってんの?!」
言って、カカシ先生がオレの手を自分の頬に押し当てた。最初は何をされたのかよく分からなくて、でもカカシ先生の頬の暖かさに自分の手が冷えているんだという事に気付かされた。
声が上ずるのとか、身体が震えるのとかは堪えられても、コレは誤魔化せなかったらしい。
「き、緊張なんか……」
してないって言いたいのに、カカシ先生にじっと見つめられて言葉が出ない。言ったって、嘘吐きになるだけだ。