B◆巻物◆

□好きな人
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オレが、カカシ先生が一番好き。

その事は間違いない。

だけどその次は?二番目、三番目、四番目……そんな風に好きな人がいっぱいいたら、駄目なのかな。

みんな好き、じゃ駄目なのかな。





好きな人






カカシ先生はいつもオレの隣で笑ってる。

優しくて、大人で、強くて、時々イジワルで………でも、そういうの全部ひっくるめてオレは好き。オレの事も好きって言ってくれる。言ってくれるからオレも好きなワケじゃない。

だけど、言ってくれるとすごく嬉しくなる。抱きしめてくれると幸せな気持ちになる。


だから好き。
すごく好き。


こんな時間がずっと続けば良いと願いながら、明日終わるかもしれないと怯え続けてる。

いや、違う。怯えてたんじゃなくて、いつも覚悟してた。

いつ切り捨てられても良いように、…と。





その日はやっぱり突然やってきた。

いつもオレの家に来てたのに、その日はカカシ先生が何故か来なくて、何でかなって思ったオレが逆に訪ねて行ったら困った顔をした。困ったというよりも、むしろ嫌だ迷惑だ…って顔だった。

「何で来たの?」

呆れたようにそう言った。

オレは悲しかったけど、心のどこかでやっと来た…とも思ってた。オレとカカシ先生とのことは昨日までで、もう今日からオレは要らなかったんだ。

これで先の見えない未来に怯えなくて良いと、安堵も少しした。

「来ちゃ駄目だったんなら、先に言っといてほしかったってばよ」

なんて言いながら強引に部屋の中へと上がりこむ。

カカシ先生は無理に止めようともしなかったけど、疲れたように溜め息をついたのは分かった。オレも同じように溜め息をつく。

覚悟はしてても、仮に安堵してたとしても、いざ、その時が来るのだと思うと悲しいし、苦しい、切ないし、辛いし…。

カカシ先生はほっとしてるかな。やっと終わるって。やっと開放されるって。

うん、大丈夫だよ。すっぱり切り捨てて良いってばよ。

「もう、オレここに来ちゃ駄目…って事?」

オレは振り返らずに言う。

顔を見る勇気はさすがになかった。カカシ先生は何も言わず、立ち止まったオレを追い越してベッドに腰掛けた。カカシ先生の顔はこちらを向いてるけど、逆行でよく見えない。

オレの目がちょっと潤んで霞んでたのかもしれないけど。

「もう、オレの事は…」

「好きだし、大事だよ。この世の誰よりも…」

オレはじっとカカシ先生の顔を窺うけど、やっぱりよく見えない。

顔が見えたところで、それが本音なのか、リップサービスなのかなんてオレには判別できないけれど…どんな顔をして言っているのかには興味があった。

笑ってる?喜んでる?怒ってる?苦しんでる?悲しんでる?それとも無表情?

この世の誰よりも、なんて本気じゃないよね。そんなわけない。

………ああ、でも、そうか。カカシ先生の大事な人はみんな居なくなってしまったって言ってた。この世の一番は、あの世の最下位以下って事なんだったら、それも頷ける。

むしろ、それですら光栄な事だよ。

「だけどね……お前は違うでしょ」

カカシ先生が俯いて、逡巡して、視線をオレから完全に外して窓の方へ向けた。

誰の事を考えてるのだろう。

その…あの世の誰か、大事な人の事なのだろうか。

「今のお前は俺が一番かもしれないけど、だけど別に俺じゃなくても……良いんデショ?」

その言葉はオレには理解不能で、オレはすぐには返す言葉を見つけられなかった。一番だけど、カカシ先生じゃなくても良いって…どういう意味?



──優しくて、大人で、強くて、時々イジワルで………でも、そういうの全部ひっくるめてオレは好き。オレの事も好きって言ってくれる。言ってくれるからオレも好きなワケじゃない。

だけど、言ってくれるとすごく嬉しくなる。抱きしめてくれると幸せな気持ちになる。


だから好き。
すごく好き…──。



オレがどれだけカカシ先生を好きなのか、カカシ先生には分かってくれてないって事?

カカシ先生の視線は相変わらず窓の方へと向いたままで、オレは呆然とその様子を見ているだけでどうしたらいいのか分からなかった。

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