B◆巻物◆

□スレナル?B
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それはたぶん俺が素で言い返すから無理に聞かなくて良かっただけなのだろうが、それでも本体よりはかなり影分身の方が高感度が高くなった。本体と比較しては、いつもこうなら良いのに…なんて思ってしまうのだからおかしなものだ。

もちろん、そうだからって好きになるわけじゃない。

こんな男はイルカの足元にも及ばない。

だけど…

少なくとも、敵愾心はかなり減ると思う。好きだとは言わないけど、嫌いだとも言わない…くらいには格上げできるのにな…なんて思っていた。

「昼間サスケと二人っきりになるのと、いま俺と二人っきりなの、どっちが嬉しい?」

カカシの影分身は、俺が休憩してると決まってこういった下らない事を聞いてくる。

本体も二人きりだったら色々言ってきていたが、波の国に来てからは二人きりになる機会が皆無だったから、すっかりカカシのそういう部分の事を忘れていた。

気を張らなくて良い分、こちらがずっと楽だけど。

「じゃあ、どっちがマシ?」

カカシの表情は、顔がほとんどマスクで隠れている分、ほとんど読み取れないけれど…俺の返答を待っているようで、当てにしていないような、答えるまでの俺の様子を観察しているような…そんな感じ。

それは本体も影分身も変わらないけれど、気分は全然違う。

本体を相手にしているのなら、言動も態度も行動も、全てが気を抜けず、神経質なくらいに気を張っておかなくてはならない。

だけど影分身相手にはその必要がないから、例え見られていても無視すればいいだけの話なのだ。

「あ、それともサクラと二人きりになるのが一番かな?」

結論だけ言えば、誰と一緒にいようと大差ない。

俺にとっては、自分か他人か。他人なら俺に敵意が有るか無いか。それぐらいしか重要ではない。

好きか嫌いか、は言ってみれば、邪魔かそうでないか、程度のことだ。

「返事くらいはしなさいよ、冷たいな〜…素のナルトは」

「そんな事言ってる暇があったら、アドバイスとかしてくれれば良いのに…」

「アドバイスって言っても、コツはサクラに聞いたんでしょ?同じような事しか言えないけど?」

役立たず!…と言おうとしてやめた。

時々フッと我に返るように、実はこいつは本体なんじゃないかと不安になる。もちろん影分身する現場も見てるし、それは無いと思いたい。

今はカカシも本調子じゃないのだから、俺の目を眩まして入れ替わりなんて出来ないとは思う。

こいつは、ただの使い捨てのチャクラの塊がカカシの姿をしているだけだって分かってるのに、完全に疑いを捨てきれない自分がいる。



もし本体だとすれば、もうかなり素に近い自分をさらけ出している事になるが…昼間の、本体のカカシはその事について追求しようとしないのだ。今までの言動から考えれば、夜の俺の素の事を持ち出して、何とか昼間も素を出させようとするはずだ。

それが無い。

だから知られていない、ばれてはいない…と信じているのだが。




「ナルトはさ、親がいたらって考えた事ある?」

「親?」

うっかり返事をして、しまったと思ったけど…してしまったものは仕方ないと、ちらりとカカシを窺う。

やっぱり読めない表情。でもどこか寂しげな、苦しげな気もする。

理由なんて分からないけど。

「いた事も無いのに、想像つかないってばよ」

友達が親に甘える姿を見ても、羨んだ記憶は無い。

不思議ではあった。同年代の子供同士では威張ったり、強がっている奴でも、親の前では途端に幼く、甘えた雰囲気に変わる事が。

なぜ親の前に出ただけでそうなるのかが理解できなかった。

「大体、『九尾』が子供なんて親にとっては迷惑なだけだってばよ。きっと……。そいつがいるってだけで、自分は何にも悪くないのに嫌な目に遭ったり…」

俺が今まで経験したのと同じような事が、俺の所為で、誰かの身に降りかかるなんて絶対にお断りだ。他人なら俺に関わらなければ良いだけの話だが、親となればそうもいかないだろう。

親子の縁を切ったと言った所で、それにどれほどの効果があるか。

「ナルトがそうなの?」

「は?」

「ナルトは何にも悪くないのに、『九尾』を封印されちゃったばっかりに…って、思ってるの?」

カカシの声音が悲しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。

悲しいのだとしても、俺には知る由も無いが。何が、何故、どういう風に悲しいのか、想像もつかない。

それにカカシが俺のことで悲しむ必要はない。

「『九尾』のいない自分なんて知らないから、想像した事も無いってばよ」

『九尾』の事実を知る前には、何かの罪ならいつかは雪がれると信じていた。

『九尾』の事実を知ってしまえば、死ぬまで何も変わらないと全てを諦めた。

だから、『九尾』がいなければ…なんて考えた事も無い。

『九尾』と共に在る事は、俺にとって、俺が存在し得る為の大前提のようなものだと思っている。『九尾』がいたから俺がいて、俺がいたから『九尾』が此処にいる。

それを否定しようなんて考えもしなかった。

否定できるわけが無いから、否定して考えても意味が無いと諦めていたのかもしれない。

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