B◆巻物◆
□スレナル?B
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少しずつではあるが、オレはだんだんと、イナリの気持ちは変えられるような気がしてきた。
子供だし、例のカイザって男に心酔したエピソードや絶望した事件を聞けば、いかに単純な性格なのかが分かった。もちろんそれはそれで、イナリの魅力なのだろう。
否定する気はない。
素直で純粋で、羨ましいと思わなくもない。
ただ、その気持ちを自分自身で理解する事は出来ないと思ったけれど。
『
スレナル?B』
オレはイルカ先生が好きだけど、心酔してるわけじゃない。ミズキの一件の時も、身を挺してオレを守ってくれて感謝したけど、だからといってそれでイナリのカイザに対するような感情、ましてや執着など生まれはしなかった。
それなりに甘えてはみるけど、絶対に、ある一定の距離以上は踏み込まない。
遠慮とかじゃなくて、踏み込まれたくないから踏み込まない。どうしたって知られたくないから、見られないように必死に本当の自分を隠す。
その辺はイルカ先生もわかっているらしく、変に踏み込んでこない。
そういう所もイルカ先生は好きだ。
オレに気を使ってるわけではなく、単に自分が面倒ごとが嫌いなだけだとしても、それでもオレにとってはその距離感の方がありがたいのだから、それで良いのだ。
なのに、オレの深淵を無理に探ろうとする男。
はたけカカシ。
隠せば隠すほど、粗探しをする。
カマをかける。
揚げ足を取ろうとする。
心酔どころか、尊敬も、親愛も感じない。
あるのは敵愾心、反発、困惑、とそれに伴う疲労感。それなりの忍びだということは認めるが、こちらの意図を汲み取れないのか、汲み取る気がないのか、俺の中に踏み込もうとするから……苦手だ。
知られたくないって言うのは十分すぎるほどアピールしてるのに。
「ああっ!もう!だから、ついて来なくて良いってばよ!!」
オレはイナリとカイザの話を聞いてから、夕食後も修行に出るようになった。サスケはさすがに体力がついてこないのか、夜の森の中には俺一人だ。
…というのは間違いで、カカシの影分身と二人きりだ。
カカシは俺を見送る振りをしながら、他の奴らに見られないように影分身を俺につける。九尾の監視のためとはいえ、身体も本調子じゃないくせにご苦労な事だ。
影分身といっても本体のコピーだから、影分身も松葉杖必須。その状態でついて来たって何にも出来ないだろ…と思う。
だからなおさら、ついて来なくても良いと何度も言っているのだ。
「下手にチャクラ使ってないで大人しく寝てろって、あんたも本体に言ってやれってばよ!」
「あれ?心配してくれてんの?」
「全然!!」
俺がこうしてズケズケ言ってしまうのも、影分身だと分かっているからだ。
影分身なんて、攻撃くらえば消えるし、こいつも俺が朝食のために家に帰るのを見届けたら消える。言ってみれば使い捨てみたいなものだ。
そんな奴に何言ったって関係ないってワケだ。
──…これが失敗だったのだと気付くのはずっと先のこと。
この当時の俺は影分身の経験が本体に伝わる事などつゆ知らず、なかなか素に近い態度で影分身に接していた。もちろんカカシもそれを知ったという態度を出さなかったし、たぶんわざと影分身は使い捨てかのような雰囲気を出していたのだ。
本当に意地の悪い男だ。
「昨日の俺とは、何を話した?」
こう聞かれたら…使い捨てだって信じてもしょうがないと思う。
カマをかけてるのだとしても、俺はそうだとは気付けず、逆に何も知られてないと安心していたのだ。
「教えないってばよ」
「じゃあ、今日は俺と何話そうか」
「あのねぇ!俺ってば修行してんの。あんたと話してる暇はないから」
「ああ、余裕無いんだ?」
影分身も本体に劣らず、コピーだから当然だけど、俺をイライラさせてくれる。でもまともに言い返せる分こっちが楽といえば楽だ。
本体相手だと、こんな態度は駄目だ、こう言っては駄目だ…と自分が決めたことではあるが、色々と制約が多くて精神的にかなり疲れてしまう。
こっち相手なら、発言にも態度にもそんなに気を使わなくて良いし。
まぁ、そう思わせて俺の本音を聞くのがカカシの作戦だったわけで…俺はマヌケにもまんまとその作戦に乗っちゃっていたのだ。
「でも、最初と比べたらかなり登れるようになったじゃない」
「コツ聞いたんだから当然だってばよ」
「それでも、良く頑張ってるじゃない」
影分身は…本体と違って、あんまり嫌味は言わない。それに俺が言わなきゃ、無理に聞こうとはしない。