B◆巻物◆

□期限付き
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カチコチ、カチコチ

時計の針の音が嫌に大きく聞こえる。誰かの訪れを待つのってこんな気持ちになるのか…とオレはベッドの上でクッションを抱えてため息をついた。

任務の待ち合わせでサクラちゃん達と一緒に待っているのとは全然違う。

だってこっちは来ないかも、という可能性がある。それだけで待ち遠しさの中に、怯えが混じる。



──……もしかしたら忘れられてるかな?

もしくは、軽くあしらわれただけで、来る気なかったのかな?



そろそろ11時半も回ってしまった。

諦めた方がいいのだろうか。

勇気は今日の分しか貯めてない。そう簡単に溜るものでもないし、明日言えばいい…なんて簡単な気持ちじゃない。今日だって決めてたから、今日しかないのだ。

今日駄目だったら全てすっぱり諦める……オレはそう、決めていた。

時計の針が12時に近付いてくのを眺めながら、オレはまたため息をつく。もしここに花があったら、恋占いみたいに『来る』『来ない』なんてやってしまいそうだ。

普段ならそんな女々しい真似しないけど。

ベッドサイドの、下忍になって間もない頃に第七班で撮った写真を眺める。カカシ先生と、サスケとサクラちゃんとオレ。

みんな一緒で、楽しくて、嬉しくて、初めて幸せだなって思った。カカシ先生の事も、ただ好きなだけだった。サクラちゃんも、サスケも、まじめに本人に言うわけじゃないけど、大好きだった。

だけどいつの間にか切なくなっていた。

カカシ先生がサクラちゃんに優しくする、サスケに修行をつける……そんな当然の事でオレは寂しさを感じるようになった。胸が締め付けられて苦しくなった。

サクラちゃんに誰とは言わずに相談すると、“それは恋よ”なんて言い切られて、もちろん即座にそんなわけ無いと思った。

だってオレは男で、カカシ先生も男で。

男は女を好きになるのが普通なんだから、オレのこの気持ちが恋なわけはないと思った。もし恋だとすれば、異常な事だ。オレは自分だとバレるのが怖くて、サクラちゃんにそれが男同士だとも言えなかった。

…男同士でも恋は出来るのだと知ったのは、しばらく後の事。それでも世間一般的に認められているわけではないのだから、やはり誰に相談する事も出来ない。

本当にこれは恋なのかな、と何度自分に問うただろう。

最初は強くて格好良いな…と思ってただけだった。いつからこんな気持ちに変わってしまったのだろう。

こんな気持ちなんて知りたくなかった。

戻れるなら戻りたいし、消せるなら消してしまいたい位に胸が苦しい。これはいくらなんでも友達に感じる好きとは違うと、オレだって分かってしまった。

オレってば、カカシ先生の事が……






あんまり長い時間を待っていると、だんだんと勇気がしぼんで…もうカカシ先生が来なくても良いような気持ちにさえなってくる。

今日中というなら、もう残り時間は少ない。来てくれないのかもしれないという思いがどんどん大きくなる。来るって言ったのに、来てくれないって事は、オレが嫌われてるか、忘れられてるか。忘れたのだとしても、オレがその程度の存在だという事だ。

それで、本当に告げてもいいのだろうか。

迷惑…になるのは間違いないけど、嫌われたり避けられたりはしたくない。大人だから人前では普通にしてくれるだろうとは思うけど、そう思われていると気付いているのも辛いものがある。

時計の針が48分を過ぎる。

もう、諦めた方がいいのかもしれない。

来るわけない。

オレは目を閉じると、ベッドに体を倒した。

眠気は襲ってこない。

まだ緊張してるからだ。昼間からずっとだし、精神が変に興奮しているのだろう。

目を閉じると浮かんでくるのはカカシ先生の顔。額当てと口布でほとんど隠れた顔。写輪眼を使うときの両目が見えてる顔。口布に隠れた部分は知らない。

見せてくれないし、見たいといってもかわされる。

サクラちゃんやサスケと一楽で見ようとしたり、色々やったな…なんて思ったら自然と笑みがこぼれた。


やっぱり昔が良かったよね。

ただ楽しかった。

今みたいに苦しかったり、悲しかったりなんてなくて。

あの頃に戻りたい。




そんな事を考えながらまぶたを開くと、目の前にカカシ先生の顔があった。

俺ってば目を開けたつもりでまだ目を閉じてるらしい。幻でまでカカシ先生が見えるなんて重症だ。

「何だ、寝てるのかと思った」

うわ、幻聴まで聞こえてる。

オレってばそんなにカカシ先生の事好きなんだ?かなり重症だな。カカシ依存症?カカシ中毒?どっちにしてもヤバいってばよ。

「何か話があるんデショ?何?」

幻はちょっと不機嫌そうで、オレは少し悲しくなった。

どうせ幻ならオレの望む通りに優しく微笑んだりしてくれれば良いものを、これじゃいつものカカシ先生のまんまじゃん。

「ナルト?」

あ、ちょっとだけ優しい声。

久しぶりかも。

任務の時だって気の抜けた声か、危険だったら張り詰めた声。優しく声をかけてくれるなんて、まず無い。オレが2年半の修行を終えて帰ってきてからは、特にそうだ。

たぶん好かれてはいないんだって自覚してる。

だけどオレは好きなのだ。

こんな風に幻を見ても嬉しいくらいに、好きで好きで仕方ないんだ。

「話無いんだったら、俺帰るよ?」

あ…また、いつもの声音に戻った。もう少し優しい声でいて欲しかったんだけどな…

幻はあからさまに大きな溜め息をついた。

少し、酒臭い……?




「本物?!」



「何、寝ぼけてんの?」

オレは飛び起きると時計の針を確認した。

11時56分。

本当に来てくれたんだという安堵と、幻と思って気を抜いていた気恥ずかしさと、これから話す事の緊張とでオレの心の中は大混乱状態。だけど、せっかく来てくれたのだし、気が変わったなんて行ってあっさり帰られる訳にもいかない。

身なりを正すと、オレはまっすぐにカカシ先生を見詰めた。

回りくどいのなんて苦手だし、ここは一気に本題に入るに限る。

「カカシ先生、オレと一週間だけ付き合ってほしいってばよ」

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