B◆巻物◆
□気持ちの名前
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木登り修行も随分と高いところまで登れるようになって来た。ナルトも俺に追いつきはしないが、随分と高いところまで登ってきている。
カカシはツナミに用事を頼まれていて、今この森にいるのは俺とナルトの2人だけだ。
だからといって、どうというわけではないのだが…。
ナルトは一心不乱に木登りを続けているし、もちろん俺もひたすら木登りを続ける。会話するわけでもないし、協力するわけでもない。
ただ、同じ場所にいるだけだ。
だけど少しだけ胸に暖かい何かが広がるのを感じる。
いつもなら俺から声をかけようなんて思わないのに、かけてみようかな…と思うぐらいには、ナルトに対して優しい気持ちになれた。
といっても、話す内容がないから実際には話しかけないけれど。
そんな事を考えながら木を登っていると、思いのほか低い位置で足のチャクラをコントロール出来なくなってしまった。
幹を蹴って宙返りすると、上に登り続けるナルトが見えた。
落下しながら見ていると、どんどん距離が離れていく。
もちろんそれは当たり前の事なのだが、…いつかこうしてナルトに追い越され、置いていかれるのではないか…なんてありえない事が頭に浮かんでは消えた。
俺が着地すると同じくらいで、ナルトが幹を蹴って落下してきた。
金色が光に反射して眩しい。
ナルトが着地するまで目で追っていると、地面が近くなってもナルトが着地体制に入る様子がない。おかしいと思った瞬間、俺はナルトに向かって駆け出していた。
俺が木の根元に着いたのと、ナルトが落ちてきたのはほぼ同時で、でも何とか受け止める事は出来た。
ナルトは疲労のためか、気を失ってしまったらしい。
「ったく、ウスラトンカチが。自分のスタミナぐらいちゃんと把握しろ…」
言いながら、腕の中でぐったりと意識をなくしているナルトをぎゅっと抱きしめた。
もし受け止められなかったらと思うと恐ろしい。
いくらなんでもこの高さでは無事では済まないだろう。普段親しいわけではなくても、そういう相手でも目の前で助けられなかったとしたら気分が悪いのは間違いない。
そう、それだけだ。
それ以上の感情は、無いと…思う。
たとえ、なぜかは分からないがこのままナルトを抱いていたいような気がしても、それはきっと気のせいだ。
「……あれ?サスケ…?」
意識を取り戻し、俺を見返す澄んだ蒼。
いつもなら其処にはカカシが映っている。今其処に俺が映っているのは、単にカカシが居ないからだと思うと胸がちくりと痛んだ。
ナルトは自分の置かれている状況がまだ分かっていないのか、ぼんやりと視線を漂わせている。
いつもからは考えられないような無表情。
普段が感情を露にした顔しか見せない所為か、それは酷く新鮮で、でも酷く不自然だった。
小さく溜め息をついて、乱れてナルトの顔にかかった髪を梳いてよけてやる。そうしていると段々とナルトの焦点が合ってきているようだった。
俺の手の動きを目が追っている。
まるで幼い子供のようだ。
そして、焦点が合うや否や、ナルトは慌てて俺の腕から抜け出す。真っ赤になって慌てている様は、如何にもいつものドタバタ忍者で…さっきまでの様子とは明らかに違う。
でもその方が良いと思った。
焦点の合わない、人形のようなナルトは、ナルトらしくない。
「な、な、な、何で…?!俺……?」
「気を失って落ちてきたんだ、お前は」
「……じゃ、サスケが受け止めてくれたのか?」
ナルトが驚いた顔で俺を見返す。
俺は目をそらすと、自分の登る木の方へ戻ろうとした。
でも、その手をナルトが引きとめる。
何だ、と振り返るとナルトが真っ赤な顔で俺を見上げていた。
しっかり受け止めたつもりだったが、どこかぶつけてしまったのだろうかとも思ったが…どうもそうでは無いようで。
キョロキョロと視線を泳がせた後、意を決したように俺を見た。
「あ、ありがとうってばよ」
「どういたしまして」
その言葉に驚きつつも、返事は本能的に自然と出ていた。ほとんど無意識だった。すぐに俺はナルトに背を向けると、木に向かって歩き出す。
だって、それ以上ナルトの顔を見ていられなかった。
無意識に返事を返すほど、ナルトの顔を見ていられないほど、俺は自分の中に生まれた感情にうろたえていた。
可愛い。
何でだ?
相手はあのナルトなのに。
何でこんな気持ちになるんだ。
たぶん赤面しているだろうと分かるくらいに顔が熱い。
何だろう、この気持ち。
ナルトは可愛くなんてない。馬鹿でドベで弱くて、俺が助けてやったら悔しそうにしてて。だけど毒血を抜くために自分にクナイを刺すほど勇気があって、影分身と変化を組み合わせるような機転が利いて……
俺のこと勝手にライバル視して勝手に俺に突っかかってきて…。
可愛い?
こっちを向いて欲しい?
俺を……見て欲しい?