B◆巻物◆
□スレナル?A
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どうしたものかと考えていると、ポン、と頭に手が載せられた。
「ナルトは、俺といると嫌そうな顔するよね」
突然の言葉だった。
普通にさらりとカカシが言って、オレの心臓がドキンとはねた。
背筋を冷たいものが伝う。
「…そんな事ないってばよ?」
なんだか振り返れない。
振り返らずに言うからこそ、なおさら緊張する。カカシがどういう顔をしているのか分からないから、何だか気分が落ち着かない。
「そうかな?少なくとも楽しそうじゃ、ないよねぇ?俺がお前の家に行くのとか、本当は迷惑?嬉しくない?」
いつの間にか、カカシはオレの正面に回っていて、動けないオレを見下ろしてにっこりと笑った。
逃げ出したい。
ここにいたくない。
オレを見られたくない。
近づいて欲しくない。
空気が重い。
今のカカシはいつものカカシと違っていて、何だか動けない。いつもなら、こんな風に威圧的な雰囲気は出さないくせに。
飄々として、掴み所がなくて、俺の隙を窺ってるけど、その実、俺に近付いてきているわけじゃない。一定の距離から俺を観察して、気まぐれにちょっかいをかけてくる感じだ。
なのに今日はどうして、こんな態度なんだろう。
今まではカカシから手を伸ばされていて、それを俺が無視している感じだった。でも今日はオレの事なんて関係なく、いきなりカカシの腕がオレを掴んだ様な気分。
声を出そうとしたら、喉がカラカラに渇いているのに気付いた。
一瞬で緊張してしまっている。
「な、何でそんな事言うんだってばよ?」
動揺してると思われたくなくて、声が震えないように気をつけながら言う。
目をそらすのは負けのような気がして視線も動かせない。
カカシはふと考えるような顔をして、すぐにまたニッコリと笑ってオレを見た。
「…そう、思ったから?」
カカシの顔は笑っているけれど、多分本心で笑っているわけじゃない。さしずめ、今のオレは蛇に睨まれた蛙とでも言う所だろうか。
本当に、動けない。
張り付いた笑顔が気持ち悪い。多分、怖いわけじゃない…と思う。他人にこんな風にじっと見られた事がないから、居心地が悪いだけだ。
言い訳のようだが、オレが知っている『怖い』という感情とは少し違う気がするのだ。
多分オレがこんな風に居心地悪そうにしているのも気付いているんだと思う。オレがカカシを迷惑だと思ってて、それをカカシも分かってて、それでどうしてわざわざ…オレに、口で言わせようとする?
再確認したっていい気分じゃないだろうに。
それとも嫌がっているオレを見て愉しんでいるとでもいうのだろうか。
「俺はナルトの事が好きなのに、それは寂しいじゃない?」
「……好き?」
嘘ばっかり、と思う。
監視役なだけのくせに。
迷惑だと思うのはむしろカカシの方だろうに。
だから、憂さ晴らしにオレをからかって遊んでるのか?
色々言って、オレが動揺してるの見て、馬鹿にしてるのか?
「…先生、オレの事好きなの?」
冗談でも、そんな事を言う奴は初めてだ。
イルカすらオレに対して『好き』だと言った事はない。それを不満だと思った事もないけれど。
そもそも、わざとらしく『好き』だなんて言われたくもないし。
「俺はナルトが好きだよ。お前が俺を嫌いでもね」
カカシの手が俺の頭を撫でる。
オレは何と答えればいいのか分からなかった。良い言葉が何も浮かんでこない。
『ナルト』だったら…どうする?カカシを嫌いなんかじゃない、と否定すればいいのだろうか。むしろ好きだと言わなければいけないのだろうか。
カカシが思う『ナルト』は?
オレが演じている『ナルト』は?
こういう時にどうすればいい?
「オレが、『九尾』だって知ってんだろ?何で好きだとか言えるんだってばよ?」
「『九尾』…ね」
カカシはふっと笑うと、松葉杖をよけて俺の目の前に腰を下ろした。
当然さっきよりも目線が近くなり、いつもよりずっと強い視線にさらされているような気がして、居たたまれない気分になる。
「『九尾』なんて関係ないでしょ。お前はお前なの。『九尾』が入ってても、入ってなくても、まず『ナルト』なんだから」
偽善的。
在り得ない。
信じられない。
嘘吐き。
ペテン師。
オレに、そんな事を言う人間なんていないって知ってるんだから。