B◆巻物◆
□伝える想い、秘めた想い。
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でも俺は、俺の気持ちをナルトに告げる気は無い。
告げたくない…というよりも告げる勇気が無い。
告げたところで足枷にしかないらないと分かりきっているのだから、だったら俺は足枷になんてなりたくない。
ナルトには自由でいて欲しい。
「…勘違いだよ」
「え?」
「偶々近くに強い忍がいて、憧れてるだけ。子供の頃にはね、まぁ…よくあることだよ。ほら、お前が好きなのはサクラでしょ?」
今までずっとアプローチしてきただろう?というように笑ってみる。最近ではサクラだって、まんざらでも無いみたいじゃない。
「サクラちゃんは……大事な友達だってばよ。オレは、ちゃんとカカシ先生のことが好きなんだってばよ!!」
ナルトは必死に言い募るけれど、俺はそんなナルトから目をそらすしかない。
見ていたら、理性に負けて抱きしめてしまいそうだ。
そんな自分に反吐が出る。ナルトの為を思えば、そんな事出来ないのは明白なのだから。
「子供だから、『好き』が良く分かってないんだよ」
「子供じゃないもん!」
「子供だよ。俺とお前は14歳離れてるんだよ?ナルトから見たら俺なんてオジサンでしょ?俺から見たらナルトなんて、まだまだガキだよ?」
もういっそ、俺の事なんて嫌ってくれて良いよ。
お前の言葉が幼い恋の告白だと言うのならちゃんと振ってあげるから、修行の間に忘れてしまえば良い。お前の未来に、俺が立つのを許されるポジションはそこじゃない。
あくまで『先生』。
あくまで『上司』、『忍としての先輩』。
お前にとっての俺はそれで良い。
悲しそうに歪んだナルトの顔が俺の胸を締め付ける。
それがナルトの為だと分かっているのに、つい抱きしめて自分の方こそ好きだと告げてしまいそうだ。
ナルトの気持ちは幼い憧れ。
俺の気持ちは醜い大人の欲望を伴う。
大人には当然のものでも、その欲望が子供に向いた時点で許されない。ナルトが好きだから、大事だから、今は泣かせるしかないのだ。
ナルトの明るい未来の為に。
「まぁ、仮に恋人になったとして、俺も大人の男だし?恋人とは色々やりたいじゃない。でも俺がナルトに手を出しちゃったらヤバいでしょ?そりゃ掟で決まってるわけじゃないけど、みんなから白い目で見られるんだよ?ナルトは俺をそんな目にあわせたいの?」
「そんなつもりじゃ…」
ナルトは『九尾』の事で里の人間の目に敏感だ。
こういう言い方をすれば、泣くかもしれないな…と思いながら、淡々と告げる。躊躇したら、次の言葉を紡ぐのが余計に苦しくなる。
感情を殺して。
表情は張り付いた笑顔のまま。
「じゃあ、心はナルトにあげるから、身体が遊郭のお姐さん達に紛らわしてもらえば良い訳?」
ナルトの大きな瞳いっぱいに涙が溜まっている。
今にもこぼれそうで、でもそれを必死にナルトはこらえていて。
「それとも、心も身体も欲しいから、大人になるまで待てって言うの?何年も俺に禁欲生活させる気?ナルトってひどい子だね……」
「先生…、俺は」
何か言いたいのに、何を言えばいいのか分からないのだろう。
俺に返す言葉が見つからなくて。
でも何か言いたくて。何とか自分の気持ちを俺に伝えたいのに。俺の言い分を否定したくて。
だけど俺はナルトが好きだから、ナルトの言葉を否定する。ナルトが大事だから、ナルトの言葉を拒絶する。
「俺も普通の男だし、それってかなりつらいと思うんだよね」
そもそもナルトは他人との接触に慣れていない。セクシャルな話をするような友達もあまりいなくて、かなり奥手な方だろう。
時々さりげなくそういう事を匂わせると、意味が分からないか、過剰なほどに嫌がった。
だから、それを分かっていてこういう言葉を選んだ。
「じゃあさ、そもそもナルトは俺とキスしたいの?それ以上だって出来るの?恋人って一緒にいるだけじゃないんだよ?」
ナルトの顔が途端に真っ赤になる。
驚きのあまり声も出ないのだろう。パクパクと口を動かすばかりで、言葉にはならない。
「ほら、答えられないじゃない。お前の気持ちなんてそんなものなんだよ。分かったでしょ?」
言いながらナルトの頭を撫でると、いつもと違ってビクリとその肩が震えたのが分かった。
ほら、怖いでしょ。
ほら、汚いと、醜いと、聞きたくないと、そう思ったでしょ?
お前が好きだなんて勘違いしてるのは、そんな醜い大人なんだよ?
「……んで、」
「ん?」
「何でそんな事言うんだってばよ!」
ナルトの瞳から、ついに涙がこぼれた。
俺が泣かせたと思うと、悲しくもあるのに、その顔が可愛いなとも思ってしまう。
本当に、どうしようもない大人。
「親子ごっことか、兄弟ごっことかならね、イルカ先生の所に行きな?俺じゃ付き合いきれないからさ」
「ごっこ、って………」
たぶんあの優しい中忍なら、俺みたいな醜い感情を抱かないでお前を大事にするだろう。俺もお前にそんな無償の愛を捧げられたら良かったのに。
以前はお前の口からあまりにその中忍が出ると嫉妬もしたけれど、今はその存在が救いのようでありがたかった。
まるで俺とは正反対だ。