B◆巻物◆
□伝える想い、秘めた想い。
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ナルトは明日から自来也様と修行の旅に出る。
いつかは俺の手を離れていくと思っていたけど、思ったよりも早かった。
他の下忍担当の上忍と比べても明らかに、うちの第七班は早いだろう。
サスケが音に走り、ナルトはそのサスケを取り戻すために修行の旅、サクラはサクラで五代目に弟子入り。
子供は嫌いだと思ってたけど、こうして実際離れていくと思うと感慨深いものがある。
中でも、ナルトは監視役ということもあって一番長く一緒にいた。
ご飯も一緒に食べたし、お風呂にも入った。
どちらかの家に行ったら一緒に寝るのは当たり前で、抱っこしたまま寝た事もあった。ナルトは何だかんだ言って、懐いたらかなり甘えん坊だから。
俺もそれが嫌じゃ無かったから、好きなだけ甘えさせた。
むしろ甘えられるのが嬉しくさえあった。
子供なんて嫌いだと言いながら、ナルトだけは別だった。
サスケと話してても、サクラと話してても、こんな気持ちにはならない。ナルトだけが特別なのだ。
そのナルトが明日から自分の側にいないと思うと、すごく胸が締め付けられる。
大人げなくも泣きたいくらいだ。
お気に入りの玩具を取り上げられる子供の気持ちだと、自分に言い訳してみても、それだけではないとちゃんと自覚してた。でも、それは俺しか知らなくてい事。
ナルトには知って欲しくない、というよりも知られるわけにはいかない、独りよがりな感情だから。
『
伝える想い、秘めた想い。』
その日ナルトは、夕方になって家に訪ねてきた。
色んな奴にしばしの別れを告げてきたのか、手には餞別と思しき荷物を沢山抱えていた。
玄関を開けて中にどうぞ…と言ったけど、なぜかナルトは動こうとしなかった。不思議に思ったけど俺が肩を抱いて中に入れてやると、抵抗はしなかった。
そして定位置のソファに腰掛ける。
自分にコーヒー、ナルトにホットミルクを出してやって、俺は向かい側に座る。
ナルトは何にも喋らなくて、ただじっと俺を見ていた。
「何?そんなにじっと見ちゃって…」
ずっと黙っていても仕方ないと、俺の方から声をかけてみる。俺は黙って見ててもいいんだけど、黙ってるナルトはいつものナルトらしくない。
ナルトは俺の声にびくりと肩を揺らす。
これは、どうやら緊張している…らしい?
「明日から当分会えないね。ちゃんと自来也様の言う事聞かなきゃ駄目だよ〜」
俺もなかなか手を焼かされたしね、なんて笑って見せる。
でもナルトは笑わなくて、俯いてしまった。
どうも様子がおかしい。
部屋に入る時からそうだったけれど、元気も覇気も無い。
それだけ俺との別れを惜しんでくれているのなら、嬉しくもあるが、でもやっぱりナルトにはいつものように笑っていて欲しい。
それとも何か別の悩みでもあるのだろうか。
だとしたら明日スッキリした気持ちで旅立てるように、『先生』としてちゃんと相談に乗ってやった方が良いだろう。
ああ、それとも長期に渡って里を離れることに不安を感じているのだろうか。
何にしても、こんな顔のナルトは見ていて切ない。
「……あのさ、先生」
やっとナルトが口を開いて、ホッとした。
それでナルトの緊張が自分にも伝染しているらしい事に気付いて、そんな自分に自嘲の笑みが浮かぶ。こんなにも自分は、ナルトの事ばっかりになってしまっていたらしい。
顔を上げたナルトは、やっぱりぎこちない表情で、俺はどきりとする。
もちろんそれを表情には出さないが。
やや頬が高潮したナルト。目も、少し潤んでいるような気がする。
ナルトは暫くもじもじとしていたが、意を決したように口を開いた。
「オレね……カカシ先生のことが好きなんだってばよ」
一瞬、頭が真っ白になった。
この子は何言っているんだ?!と。
大人げない俺の脳みそが見せた妄想がこんなにもリアルに見えてしまったのか、と。
でもすぐに、ああ、と思い直す。
「うん、俺もナルトが好きだよ?」
ナルトの顔はすごく真っ赤で、それがとても可愛らしい。でも俺が返事を聞くと、その顔があっという間に曇ってしまった。
「好き…なの」
「うん、ありがとう」
俺はにっこりと笑って、ナルトの頭を撫でた。
いつもと同じように、優しく慈しむように。いつもならこうすると、ナルトは幸せそうに笑って俺の手の感触を感じてくれた。俺はいつもそれが嬉しくて、作り笑いじゃなくて普通に微笑むことが出来た。
でも、今日はさすがに作り笑いでしかいられない。
ナルトはそんな俺の手を掴んで自分の前に持ってくると、ぎゅっとその手を包んだ。そのちいさなナルトの手が愛しくて、ついナルトを抱きしめてしまいそうな自分を叱咤する。
「そうじゃなくて、先生。オレってば、オレってば……」
ナルトは俺に気持ちを伝えようと必死だ。その姿はとてもいじらしくて、可愛くてたまらない。