B◆巻物◆
□ずっと、ずっと…
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第一印象は、『小さい』だった。
「お前が会いたがっていた人間を連れてきたぞ」
そう言った三代目の横で、付き人が自分が抱えていた『何か』を俺の前に横たえた。
どうやら生き物らしいのは分かったが、小さくて、布に包まれていて詳しくは見えない。
しかも眠っているのか(何かで眠らされている?)、ピクリとも動かなかった。
包まれ具合から赤ん坊らしいというのは分かる。
だが、あんまり赤ん坊と接する機会のない俺でも違和感を感じるほどに不可解な、まるで人形のような赤ん坊だった。
「何、コレ?」
動くのが億劫で、一瞥しただけで俺は三代目へと視線を戻す。
赤ん坊になんて興味ない。
ましてや子守などを言いつけられたら、即刻立ち去ってやる。
「お前が会いたがっていた人間じゃ」
三代目が、同じ言葉を繰り返す。
コレが?
コレのどこが?
「俺の会いたい人なんて、もう何処にもいないじゃない」
もう死んでしまったんだから。
手を伸ばしても届かないのなら、もう俺は手を伸ばさない。
三代目は小さくため息をつくと、赤ん坊を間にして俺の前にしゃがみこんだ。
はじめはそれを目で追っていたけれど、途中で面倒くさくなって視線をそらす。
上にそらすのは疲れるから、自然と視線は下を向く。そして落とした視線の先には、昏々と眠る赤ん坊。
三代目がそっと優しく赤ん坊を撫でると、フ…っとその目が開いた。それでやはり何か術をかけていたのだと確信した。
虚ろな瞳が瞳が三代目を映し、次に俺を映す。
あの人と同じ澄んだ蒼が俺の目には痛い。
見ていたくないと俺が目をそらすと同時に、その赤ん坊がいきなり泣きはじめた。
まるで、目をそらした俺を責めるように。
単に泣き止まないから術で眠らされていて、その術が解けたから泣き出したのかもしれない。だけど俺にしてみれば、まるで自分が悪いかのようで…良い気分ではない。
見かねて三代目が赤ん坊を抱えてあやす。
手馴れてるとはいかなくとも、人肌に安心したのか少し赤ん坊の泣く勢いが衰えた。
「名をナルトという。聞き覚えがないか…カカシよ?」
「ナル、ト?」
聞き覚えは、ある。
このところずっと霞のかかっていた思考に、さっと光が差すようだった。
それほどに大事な名前だ。
いや、大事だった名前というべきか。
「じゃあ、この子が四代目の?」
「…そうじゃ。わしらの為に九尾の容れ物になってくれた偉大な子供じゃよ」
俺は黙ってその子を見つめる。
そうだ。
確かに会いたかった。
ずっとずっと、会えるのを心待ちにしていた。
でもそれは…四代目が隣にいたからだ。
四代目が隣にいて、四代目が待っていたから…だから俺も待ってただけで。この子にだけ会いたかったわけじゃない。
四代目がいないならこの子に会っても意味なんて無い。
「…それで?」
「お前にこの子を任せる」
三代目が淡々と、当然の事のように言った。
そのあまりの自然さにうっかり返事しそうになったけれど、返事が喉から出る前に慌てて止めた。
「冗談デショ?俺が子供の世話なんて出来るわけないじゃないですか…!」
ムキになって言い返す俺を三代目がじっと見つめる。
「四代目がお前によく言ってなかったかのぅ?生まれた子の世話はお前に任せるとな…。もう忘れたのか?」
確かに言われた。
けど、それは冗談だ。
あくまで時々抱かせてあげるとかその程度の意味としか誰も思わないだろう。にもかかわらず、その言葉通りに俺に赤ん坊の世話をさせようなんて…三代目は本気なのだろうか。
信じがたいと、目で訴えるが三代目は意に介した様子はない。
「どうしても断るというのなら、任務としてお前に命令を下す。その間、お前には他の任務は一切回さぬからそのつもりでおれよ。お前の家が嫌ならこちらでそれなりの住居は用意する。早速今から任務に就くように」
「ちょ、ちょっと……」
全て決定事項らしい。
俺の意思は全く関係なく。
そりゃ俺は木ノ葉の忍者なんだし、火影の言葉は絶対だと分かる。
だけど、納得いかないのも事実だ。
「三代目!本気ですか?!」
「こんな冗談を言ってどうする。それから、ナルトに何かあったらただじゃ済まんと心しておくように」
三代目はそう言うと、付き人と一緒に出て行ってしまった。
一度も振り返らなかったところをみると、本当に本気らしいのは分かったけれど。
俺は、ただ、ただ、呆然と目の前のナルトを眺めるしかなかったのだった。