B◆巻物◆

□スレナル?@
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とりあえず、こちらがいろいろ考えているのがバレてもいけないし、今はとにかく笑顔だ。新しい先生と仲良くなりたくて、その先生が家に訪ねてきてくれて、かなり喜んでる寂しい子供。

それを演じればいい。

頭を撫でていたカカシの手が、スルリと下りてきて頬を撫でるようにして離れた。触れるか触れないかの、かすかな感触に少し肌があわ立つ。

でも、カカシは表情を変えた様子も無い。

もしかしたら、何か試されているのだろうか?


「ところでお前、晩飯は食ったのか?」

「は?」

一瞬、全ての思考が停止した。

カカシの口から出た言葉が、俺の想像していた言葉のどれとも当てはまらなくて対応に迷ったのだ。反芻してみても、やっぱりその台詞は俺の理解の範疇を超える。

驚いてカカシを見るが、カカシは俺を見てニコリと笑うだけ。

「そろそろ晩飯の時間だろ?」

カカシは、また俺の頭に手を置いた。

イルカ先生といい、俺が身長低いと思って…よく頭を撫でてくる。嫌だとは言わないけど、別にいい気分なワケでもない。

「……食ってないけど、なんで?……まさか、ここに飯食いに来たの?!人に食べさすようなもの無いってばよ」

「ああ、材料は持って来たから心配するな」

「はぁ?!」

この男は何を言っているんだろうか。

材料を持ってきたということは、ここで作る気なんだろうが。

おまけに、ここで一緒に食べる気?



そんなのお断りだ…と強く思う。


だけど、たぶん、俺の設定してる『うずまきナルト』はこういう事されると、すごく喜ぶはずだ。

素直で、馬鹿で、甘えたがりで。

こんな性格に設定するんじゃなかったと思っても仕方ない。里に害の無いに人間になろうと考えた時に、自然と自分と正反対の性格を想像してしまったのだから。その時の俺の自己嫌悪具合が、相当なものだったという事だろう。

だが、こうして腹の探り合いともとれるやり取りをする時は、正反対の性格はどうにもやり難い。

「なんだ、ナルト。迷惑か?」

「う、うれしいってばよ!!オレってば誰かと飯食うのってあんまりないしさ!」

「なら、よかった」

カカシはうなずくと、俺の髪をくしゃと乱して料理をすべくコンロの方へ歩いていった。

俺はそれを目で追いながら、面倒くさいことになった…とこっそり溜息をついたのだった。





カカシの料理は、思いの外…不味かった。

俺が野菜嫌いな事もあるけれど、それを差し引いても決して美味しいとは思えない。

本当に、この男は何しに来たんだと思わされる。

監視ならこんな手の込んだ事なんてしないで、黙って見てればいいのに。

だいたい、カカシは何か話すわけでもない。

俺を観察してる風でもないと思う(もっとも、上忍なら俺に悟らせなどしないだろうけど)。

近づかないけど、離れてもいかない?

ある一定のラインに立って、こちらの出方を待っているといったところだろうか?

もっとも、待たれたところで本性を出す気など全くない。

本当につかみ所がなくて、厄介な相手だ。


「なぁ、カカシ先生。何でオレにこんな事してくれるんだってばよ?」

このくらいの質問なら『うすまきナルト』の範疇だろう。

裏を読もうとしているわけではなく、ただ純粋な疑問のようにぶつければ大丈夫だ。

分からなかったら聞く。

教えてくれないなら、しつこく食い下がる。

それでも駄目なら、すねてみたり、駄々をこねる。


食事中の沈黙の間に、俺は『馬鹿でドベのうずまきナルト』を演じる心の準備を済ませた。


抜いていた気を張り詰めて、

素の感情は押し隠して、

自分の心の中のスイッチを切り替える。

いつものならその切り替えが、家の内と外で切り替わる。だけど、今日ばかりは強制的に切り替えるしかないわけで。

「だってさ、だってさ…今日会ったばっかりだしさ。オレってば悪戯したし。先生もオレ達の事、嫌いだって言ったくせに……」

俺はちょっと拗ねたような態度でカカシを見上げる。

カカシは俺から目を逸らすと少し何か考えて、俺に向き直ると俺の頭を撫でた。

「ま、隠してもしょーがないから言うけど……俺は三代目からお前の監視役を任された」

さわやかな、それでいて張り付いたような笑顔だった。

やっぱり、と思った。

でもそれを自分から言うとは思わなかったけど。

「理由は、分かるな?」

「……分かってるってばよ」

カカシは、真面目なようにも見えたし、どこか面白がっているようにも…見えた。

カカシは、九尾を憎んではいないのだろうか。

少なくとも俺に向けられる感情は、憎悪ではない。

感情を隠して、優しそうな外面を見せているだけかもしれないけど。他の里の大人のように、あからさまな憎悪を向けられるよりはいくらかマシかもしれない。

だけど、実際どう思われているのか分からないのは、それはそれでタチが悪いとも思う。

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