B◆巻物◆

□LastDay,FirstDay.
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「今朝、産気づいてね…。さすが僕の子っていうか、こんな時に生まれるなんてすごくない?」

凄いといえば凄いし、偶々だといえば偶々だ。だけど四代目がそれに意味があると言えば、俺にとってもその事は意味を持った事になる。

俺にとって、四代目とはそういう存在なのだ。

「それは……、おめでとうございます。」

でも、あまりに唐突だったので、何も考えられずに一般的な事しか答えられなかった。

「……でも、こんな格好で行ったら驚かせちゃうよね」

言いながら、四代目は汚れた服をはたいた。

その顔は待ちに待った子供がいよいよ産まれるという割に、なぜか暗い影を落としている。

いつもの四代目から考えるなら、子供が生まれるともなれば、きっともっと満面の笑みだろう。どうにかしたら、喜びのあまり駆け回ってるかもしれない。

そのはずなのに、この表情だ。

嬉しそうではあるのに、儚い笑顔…とも言えるような表情。喜んでるのに、寂しそうな…そんな顔をしている。

例え里の今の状況を考えたにしても、暗すぎる気がした。

俺の考えすぎだろうか…?

「…あいつの側についていてやりたかったんだけど、『そんな暇があったらしっかり里を守りなさい』って怒られちゃってさ…」

「ああ、あの人なら言いそうですね…」

愛しの細君に怒られている四代目の様子が、容易に目に浮かぶ。

でもそれだっていつものことで、ここで暗い顔をしている理由にはならない。でも、その理由を俺が聞き出してもいいものか迷う。

「今から行けば良いじゃないですか。今頃きっと待ってますよ。」

とりあえず、暗い顔が晴れるようにと必死に言葉を探した。

四代目の暗い顔なんて、似合わないし、見たくないから。強くて、優しくて、勇気に溢れた、明るい表情でいてほしかった。

四代目はみんなの希望で、象徴で、心の拠り所。

この人がいれば、どんなに大変な事でもどうにかなるんじゃないかと思った。助けてくれる、守ってくれる、この人ならば。

誰もがそう思っていた。俺を含めて。

だから、その四代目に暗い顔でいられたら…もう希望はないと言われているようで怖かった。

だからいつもみたいに笑ってほしかった。

こんな大変な状況ではあるが、人生でも指折りの慶事を迎えたのだ。なのに、こうも暗い表情をしている四代目なんて有り得ないと思った。

「一人で頑張らなきゃって思うより、誰かを守りたいって思う方が強くなれるって言ったのは先生ですよ。」

「…………」

四代目がじっと俺の顔を見た。

何か変なこと言ったかとドキドキしたけど、俺も負けじと四代目を見つめ返す。

「………」

「………」

「…………」

「…………」

しばらくそうして睨み合う様に見詰め合っていたけれど、先にその均衡を破ったのは四代目の方だった。にらめっこに負けたかのように、急に笑い出したのだ。

「…そうだったっけ?ふふふ、そうだったよねぇ。あはははは」

やっと笑ってくれた、と思った。

自分の中で密かな達成感。

ほら、やっぱりこうして笑っていてくれればそれだけでちょっと安心する。

笑っている方が四代目らしいんだ。



四代目はひとしきり笑うと深呼吸をして、今までとは打って変わってスッキリした清々しい表情で俺の方を向いた。

その表情に、俺はほっと胸をなでおろした。いつもの四代目に戻った、とほっとしたのだ。

「僕の子はきっとどの火影よりもすごい里の英雄になるよ。」

「…火影以上の?」

「そう!誰にでも出来る事じゃないんだ。僕とあいつの子供だから、だからきっと出来ると思う。」

なぜか、心臓を締め付けられるような…変な気持ちになった。

四代目が笑顔なのに、安心感なんて全然もなくて、違和感どころじゃなく、不自然に思えるほどに嫌な感じだった。

「昨日、あいつと話し合って決めたんだ。…三代目とかの許可ももらえたし、あとはあの子が生まれてくるだけなんだ」

そう言って優しく微笑む四代目はすっかり父親の顔をしていた。

幸せそうなのに、そう見えるのに、俺の中に生まれた不安は広がるばかりだ。

なぜかは分からない。どうしても名前を探すのなら、“勘”とでも言うしかない。

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09.02.23

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