B◆巻物◆

□依心伝信−イシンデンシン−
4ページ/7ページ

▲戻る

それがナルトの為だと分かっているのに、悲しそうに歪んだナルトの顔が俺の胸を締め付ける。

ナルトの気持ちは幼い憧れ。

俺の気持ちは醜い大人の欲望。

大人には当然のものでも、その欲望が子供に向いた時点で許されない。例えナルトが俺の思いに応えたとしても、世間から見れば大差などない。

ナルトが好きだから、大事だから、今は泣かせるしかない。

ナルトの明るい未来の為に。

「まぁ…仮に恋人になったとして、俺も大人の男だし?恋人とは色々やりたいじゃない。」

ナルトは俺の言葉に恐る恐るといった風に頷く。また俺がナルトの想いを否定するような事を言うんだろうと思って警戒しているんだろう。

もちろん、そのつもりなんだけど。

「でもさ、俺がナルトに手を出しちゃったらヤバいでしょ?そりゃ、うちの里の掟で決まってるわけじゃないけど、みんなから白い目で見られるんだよ?ナルトは俺をそんな目にあわせたいの?」

「そ、そんなつもりじゃ…」

「じゃあ、どんなつもりだったの?」

「…………」

ナルトは『九尾』の事で里の人間の目に敏感だ。

こういう言い方をすれば、泣くかもしれないと思いつつも、あえて淡々と告げる。躊躇したら、次の言葉を紡ぐのが余計に苦しくなるから。

感情を殺して。

表情は張り付いた笑顔のまま。

「例えば、心はナルトにあげるから、身体は遊郭のお姐さん達に紛らわしてもらえば良いって事?」

いつの間にかナルトの大きな瞳いっぱいに涙が溜まっている。

今にもこぼれそうで、でもそれを必死にナルトはこらえていて。

「それとも、心も身体も独占したいの?だからナルトが大人になるまで待てって言うの?何年も俺に禁欲生活させる気?ナルトってひどい子だね……」

「先生…、オレは」

何か言いたいのに、何を言えばいいのか分からないのだろう。俺に返す言葉が見つからなくて、でも何か言いたくて。


何とか自分の気持ちを俺に伝えたいんだろうね。

俺の言い分を否定したいんだろうね。


だけど俺はナルトが好きだから、ナルトの言葉を否定する。

ナルトが大事だから、ナルトの言葉を拒絶する。



「俺も普通の男だし、それってかなり辛いと思うんだよね〜…」

そもそもナルトは他人との接触に慣れていない。セクシャルな話をするような友達もあまりいないようだし、かなり奥手な方だろう。時々さりげなくそういう事を匂わせると、意味が分からないか、過剰なほどに嫌がった。

だから、それを分かっていてこういう言葉を選んだ。

ナルトが俺を嫌がるように……

「じゃあさ、そもそもナルトは俺とキスしたいの?それ以上だって出来るの?恋人って一緒にいるだけじゃないんだよ?」

ナルトの顔が途端に真っ赤になる。

驚きのあまり声も出ないのだろう。パクパクと口を動かすばかりで、言葉にはならない。そういう行為の存在は知っていても、自分の身に起こり得ることだとは考えてはいないのだ。

ああ、でも確かサスケとはキスしたんだったか。事故らしいけど。

でもそこまでの事が思いつかないって事は、やっぱり幼い憧れでしかないって事じゃない。

「ほら、答えられないデショ。お前の気持ちなんてそんなものなんだよ。分かった?」

言いながらナルトの頭を撫でると、いつもと違ってビクリとその肩が震えたのが分かった。



ほら、怖いでしょ。

ほら、汚いと、醜いと、聞きたくないと、そう思ったでしょ?

お前が好きだなんて勘違いしてるのは、そんな醜い大人なんだよ?




「……んで、」

「ん?」

「何でそんな事言うんだってばよ!」

ナルトの瞳から、ついに涙がこぼれた。

俺が泣かせたと思うと、悲しくもあるのに、その顔が可愛いなと欲情している自分がいる。本当に、どうしようもない大人。


こんな俺をお前には知られたくないんだよ。嫌われたくない。

そういう対象になれないのなら、せめてキレイな先生のままでいさせてよ?

▲戻る

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ