B◆巻物◆

□ずっと、ずっと…
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どうやら街の人間もわざわざ追っては来なかったようで、周りに人の気配はない。

ホッと息を吐くと、自分が思ったよりも緊張していたらしいことに気付かされる。任務でだってこんなに手に汗かくなんて滅多にない。

それを考えて俺は一人で苦笑した。なんで里の中にいるのにこんなに緊張しているんだか、と笑うしかない。

俺はナルトを抱えなおすと、そっと顔を覗き込んだ。

「ごめーんね。いきなりでびっくりした?」

ナルトは少し泣いていた。

俺の服を掴んだまま少し震えながら泣き続けてた。いつもなら俺があやすとすぐ泣き止むのに、今日はなかなか泣き止まない。

もしかして身体に何か影響が出たのだろうかと思った。

けれど、この里の医者に見せて大丈夫なのかと不安にさせられる。里の人間全てが、ナルトを憎んでいるとは思いたくない。

だけど、さっきの事が頭から離れない。



しばらくあてもなく歩いて……気付いたら、四代目の墓の前に立っていた。

石はまだ真新しくて、作られて間の無い事が分かる。

ほんの2ヶ月前だから当たり前といえば、その通りなのだけれど俺にはここに四代目が眠っているという実感がないから。

言葉では聞いた。

その言葉を理解もした。

だけど、俺がこの目で見たわけじゃない。

そんな言い訳をして俺は四代目の死から目を逸らしてた。

この場所に来たら、前に立ったら、四代目の死を認める事になるから、だから来れなかった。来たくなかった。ここに来たら俺の中の何かが壊れてしまうとさえ思ってた。

だけど、どうだろう。

俺はこうも普通に平然とここに立っている。

いや、平然とではない。

心はさっきから酷くざわついている。全く落ち着かない。それはつまり、四代目の死を認める云々よりも、さっきの出来事の方が俺の心の大部分を占めているという事だ。

俺は、四代目よりもナルトの事に胸を痛めているという事だ。




いつからだろう。

俺はいつだって四代目が全てで、四代目が基準で、四代目を越える事を目標にして、その為に四代目の事ばかりを見ていた。

もちろんそれは尊敬してたからだし、四代目が俺にとっての一番大事な人だったからだ。

なのにいつの間にか…俺は四代目よりナルトを優先してる?

四代目の死を認めたくないからここに来たくなかったはずなのに、平然とここに立って、考えてるのはナルトの事?

何で?

そんなワケない。俺の気持ちがそう簡単に変わるわけない。

そう思うのに、そう思いながらも、その事で悩むよりも、……ナルトが里の人間にあんな目で見られているという事実がたまらなく苦しい。

ナルトがどうしようもなく可哀想で。

同情なんかじゃない。俺は他人に同情なんか出来ない。

理不尽な視線を向けられる身の上を、かつての自分と重ねているとでもいうのだろうか。



四代目は里の為に自分の身を犠牲にして、火影として立派な最後だったと思う。

だけど…父親としては?

本当にコレでよかったんですか?

どうしてもナルトじゃなきゃいけなかったんですか?

ナルトはこんなに幼くて、か弱くて、誰かが守らないと生きていけないのに。生まれたばかりの大事な子供に、貴方はどうしてこんな過酷な運命を背負わせたのですか?

ナルトに背負わせるくらいなら、俺が背負ってよかったのに。

むしろ、俺に背負わせて欲しかった。

俺ならそのまま九尾と一緒に死んだってよかったんだから。

里の人間があんな目で見てくるのなら、不安の芽を摘み取るためにと九尾とともに命を絶ってしまえば…里の人間だってどんなにか安心しただろうに。

どうして俺じゃなくて、ナルトなんですか?










ライドウが、少し寂しそうに俺を見ていた。

「今はもう…死にたくはないのか?」

そういえば、と思った。

人生なんか終わってしまえばいいと思っていたはずだった。

生きる意味が無くなった。もう生きていても仕方ない。目標も、拠り所も失ってしまった。

生きていても無駄だと思っていた。

でも、

「………ああ。気が、変わった…」

今は、たぶん、死にたく…ない。

死んだらナルトが守れない。

俺はナルトを守りたいと思ってる、気がする。

四代目がいないのだから、俺が守るしかない…なんて言い訳だ。

俺が、俺自身の意思で、ナルトを守りたいと思ってる。

ナルトが大事だと、思い始めてる。

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