B◆巻物◆
□ずっと、ずっと…
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父が任務を失敗して帰ってきてから、俺を取り巻く環境は一変した。
俺には四代目という後ろ盾があったから、誰もが直接手を出すことも出来なかった。だからみんなで遠くからひそひそと陰口を叩くのだ。
何か言いたいのに、直接言う勇気もない。
そのくせ自己主張ばっかり強くて、集団でしか何も出来なくて、でも集団だからこそいくらでも強くなる。
本当に厄介だ。
四代目がいなくなれば、俺もまだ標的だったということだろうか。
いつまでもネチネチとご苦労な事だ。そのエネルギーをもっと生産的な事に回せばいいのに…何度思ったことだろうか。
俺はナルトを抱く腕に力を込める。
この子には、こんな目にあって欲しくない。俺は平気だけど、俺のせいでこの子まで冷たい視線を受けるなんて冗談じゃない。
でも、
遠くで、誰かが言った…。
「九尾………」
聞こえたと思った瞬間、他の沢山の聞き流していた言葉が耳に飛び込んでくる。
そこらじゅう、誰もが口にする。
九尾だ…と。
怖い。
恐ろしい。
おぞましい。
憎い。
近づいたら危ない。
九尾のクセに街に近づくな。
九尾なんかが近寄るな。
九尾はどこかに行け!
九尾が何でここにいる?
あれだけの事があったのに、何でここに九尾が在る?
お前はここにいて良いものじゃない。
消えろ。
消えろ!
消せ、消せ、消せ
殺………
ゾクリ、と悪寒が走った。
何を言ってるんだ、この人間たちは?!
九尾が憎いのは分からないでもない。だって里を壊滅状態に追い込んだ化物だ。多くの犠牲が出たのだから、その事でまだ苦しんでいる人間は少なくないだろう。
だけど、それをどうして…ナルトに向ける?
ナルトだって犠牲者だろう?
一番の犠牲者だといってもいいはずなのに。
里を守るために、自分の事も周りの事も何にも分からないまま、九尾の容れ物になって…
それで里の人間にこんな目で見られるのか?
俺はナルトをぎゅっと抱きしめた。
──ここにいちゃいけない。
俺がナルトに見せたかったのはこんな物じゃない。こんな物見せたくもない。
気付かせたくない。
俺は脚に一気にチャクラを溜める。
普通に走るよりも、瞬身で今すぐこの場を離れようと思ったのだ。このままここにいたら、周りの人間の気持ちがどんどん高揚してしまう。そうなれば暴動になって、ナルトを襲われかねない。
現に彼らは物騒なことを言っていた。
気合は十分のはずだ。
そうなった場合、いくら一般人相手とは言っても切り抜けるのは難しい。
これが俺一人なら逃げ切ることも、全て倒すことも出来ない事もないかもしれない。だけどナルトを守りながらでは、どうしても行動が制限される。
自分が傷付くのなんてどうでもいい。
だけどナルトは駄目だ。ナルトは守らなければいけない。傷つけたくない。泣かせたくない。
俺は息を呑んだ。
辺りをピリピリとした空気が包んでいるのが分かる。
でも、チャクラを練りこんだ足で踏み出して、身体が加速した瞬間…ナルトが咳き込んだ。
そしてすぐに気付いた。
それが今の瞬身のせいだと。俺の身体は鍛えてあるから耐えられるけど、赤ん坊のナルトの身体にはきついのだ。
すぐに極力ナルトの身体の負担にならないように着地する。だけど、次に踏み出すために溜めたチャクラを使うことは出来なかった。
ナルトが今の瞬身の衝撃の所為かぐずり始める。
でもあやす余裕なんて無かった。俺は回りに激しく殺気を振りまきながら走った。
誰も近づかないように。
ナルトにも何も見せないようにぎゅっと抱き込んで。
早く。
速く。
誰もいない場所に。
誰もナルトを責めない場所に……
先生は、こうなるって思わなかったんですか?
ナルトがこんな目にあって良いんですか?
ナルトが可哀想だと、思わないんですか…?
ナルトに背負わせるくらいなら、俺が背負ってよかったのに。
先生…どうして俺じゃ駄目だったんですか?