B◆巻物◆
□ずっと、ずっと…
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人間は、自分と違う人間をひどく嫌う。差別する。
枠からはみ出た人間は、容赦なく枠の中の人間の基準で淘汰される。
俺の父がそうだった。
人の身の安全を案じての任務失敗。それは、里の掟によって…というよりも周りの人々が、父を許さなかった。たぶん多少は父の成功を妬んだ人間の悪意もあったのだと思う。
詰られ、責められ、卑しめられる。とにかく周りの人間全てが父を追い詰めた。
父さんは悲しんで、苦しんで、とうとう……
俺も父の子だから、と謂れのない嫌がらせを受けた。
それでも父を信じていた。
父のした事は間違ってないと信じていた。
父が死んでしまうまでは。
死んだという事は、己の非を認めたという事?
死んだという事は、己の行動を後悔したという事?
父は間違っていたのだと、俺に思い知らせた。
人の命よりも掟が大事なのだ。たとえ命を落とす事になっても、任務遂行が最優先。
それが忍の生き方。
父の死は俺にそれを教え込んだ。
だけど、四代目が、オビトが、リンが、教えてくれた。
父は間違ってなかったのだと、父は立派だったと、英雄だったと…俺はまた堂々と父を信じ尊敬して良いのだと言ってくれた。
彼らがいれば、父を責めた里の中でも自分らしく生きていけると思った。
彼らがいれば、俺は俺でいられると。
彼らとなら一緒に生きていけると思っていた。
だけど…もう誰も、いなくなってしまった。
四代目が死んでから、外出するのは初めてだ。
九尾事件の後、色々片づけを終えて部屋に戻ったらそのまま俺は部屋に閉じ籠った。
一人でならまだ出る気にはならなかったかもしれないけど、今はナルトと一緒だから気分が良い。
ナルトを喜ばせるために、なんて言い訳しながら俺たちは街を歩いた。
火影の顔岩。
忍者学校。
演習場。
そして、慰霊碑。
ナルトに見せてみたいものが、色々浮かぶ。
ナルトがどう反応してくれるだろうか、笑ってくれるだろうか…それを考えると、俺の気分は少しだけ軽くなる。
ナルトの為に何かする、という事が俺には酷く心地よかった。
「さて、まずは何処に行こうかな…」
今日一気に回ってもいいけど、ナルトが疲れちゃったら元も子もない。一つずつじっくり見せた方がいいのかもしれない。
ふと、ナルトの顔を窺うと、ナルトはすやすやと眠っていた。気持ちよさそうな表情にこっちまで眠くなりそうだ。
柔らかい頬をつつくと、ナルトは一瞬眉を顰め、でもすぐにまた穏やかな表情に戻ってすやすやと寝息を立てた。
「せっかく外に出たのに、寝ちゃ意味無いでしょうが…」
なんて言いながら、また俺の頬が緩む。
とても穏やかな気持ち。
今までにない不思議な気分。でもそれは不快ではなくて。
不快ではないけれど、浮かんだ言葉を認めるのが怖くて、俺はその言葉を心の奥底に沈めた。
しばらく歩いていると、なぜか俺達にやたらと視線が刺さる事に気付いた。
何かひそひそ話も聞こえる。
聞こうと思えば、聞き取れる。だけどこういう場合、聞き取れば気分を害するのは目に見えている。だから俺は無視を決め込んで歩き続けた。
視線はただ見ているというのではなく、本当に刺さるような鋭い視線だ。
明らかに悪意や敵意がこもっている。
俺がこんな視線を里の中で感じるのは、結構久しぶりだ。任務中なら周りは敵だらけなのだから、殺気のこもった視線がそこかしこから感じられる。
だけどここは里の中だ。
安全で、楽しく賑わっているはずの場所だ。
そんな場所で、こんな視線を受けるなんて、本来ならある筈がないのだ。