B◆巻物◆
□ずっと、ずっと…
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その日は、12月にしては暖かくて散歩日和だった。
といっても冬であることには変わりない気温なので、ナルトにはしっかり服を着せる。
生まれて2ヶ月以上経つ所為か、だんだんと俺の動きなんかを目で追うようになってきた。
外に連れ出した方が、いろんなものを見れてナルトが喜ぶだろうと散歩に出ることにしたのだ。ついでに買い物なんかも済ませられるし、俺としては一石二鳥だ。
ナルトは服を着せる俺をじーっと見つめる。
俺もそんなナルトの様子を見詰める。
別に見詰め合っているつもりはないけど、お互いがお互いをじっと見詰め合う。
どうも俺はその時間が嫌いじゃないらしい。
俺と目が合うとナルトが嬉しそうに笑うからだろうか。
ナルトが笑うと、俺も自然と気分が軽くなるからだろうか。
それがなぜなのかは分からないけれど。
着せ終わるとそっとナルトを抱え上げる。
もうナルトも慣れてきて、定位置の俺の服をぎゅっとつかむ。
そうかと思えば上に手を伸ばして、ちょうど届いた俺の髪をつかんで引っ張る。
「ナルト、あんまり引っ張られると痛いんだけど?」
なんて言ったところで通じないだろうけどね。
分かっていても話しかけてしまうのはなぜだろうか。
小首を傾げる様にしてナルトの顔を覗き込むと、ナルトはますます俺の髪を引く。
まぁ、拷問訓練も一応受けてるからこのくらいの痛みはどうでもいいんだけど。
反応を返した方がナルトが喜ぶから、俺は困って見せる。
笑うナルトは可愛いと思う。
まだ俺も何かを可愛いなんて思える心が残ってたんだな、なんて自分の心に驚かされる。
もう心なんて涸れてしまったと思ってた。
四代目がいなくなった時に涸れたと思っていたのに。
そうだと思い込んでたのに、俺ときたらこんなにも現金で、新しい温もりが触れた途端にそれにすがってる。
ナルトに……
俺はこうして、ナルトの為だ…なんて言い訳しながらのうのうと生きてる。
餓死でも衰弱死でもいいから人生が終われば…なんて言いながら、本当に死ぬ気なんてなかった。
誰かが止めに来ると思っていた。
気付いていた。
そのまま死ねるわけなんてない事を。
俺はただ、駄々をこねて部屋に閉じこもっていただけ。
『僕の子だし、たぶん忍になりたいって言うだろうなぁ。そしたらカカシが先生になったりしてさ…』
『俺は先生になる気なんて無いですよ。子供の世話なんて…』
四代目とそんな夢物語を話した。
そうなっても良いと思った。
いや、そうなれば良いと……。
でもそれは四代目がいてくれてこそ…そう思ってた。
貴方がいないなら誰が子供の世話なんて…って。
子供なんて嫌いだから。
なのに、俺は今…ナルトを可愛いなんて思ってる。
四代目がいないのに。
…四代目の身代わり?
まさか、こんな餓鬼が身代わりになんてなれるわけがない。あの人の替わりなんてありえない。
だったらなんで?
どうして俺はナルトを可愛いと思えるのだろう?
自分の気持ちが分からない。
こんな気持ちになるわけがない。
今までなった事ないし。
「………なんで、だろうねぇ?」
そう言って俺はナルトをぎゅっと抱きしめた。
もちろん、抱きつぶさないように、細心の注意を払いながら…
それでも許される精一杯の力で。
その温もりを、放したいのか、放したくないのか…
俺にはまだ分からない。